過去のお知らせ <所得税>

もう使えない!謎の「軍用地控除」
2017年04月30日

 全国的には知られていないと思いますが、沖縄の所得税確定申告では「軍用地控除」が一般的に適用されています。
 軍用地控除とは、【公用地(軍用地)料-地主会会費】の1割を収入から控除しても税務署はそれを認めるというローカルルールです。その起源についての真偽は確かめようがありませんが、かつて「税制調査会のドン」と称され、選挙区でもない沖縄とつながりの深かった自民党の大物政治家だった山中貞則さんの沖縄の基地負担に配慮した鶴の一声だと言われています。
 もちろん、法律には軍用地控除なる規定は存在しません。当職が沖縄に来て間もない頃、相談員として税務署主催の確定申告相談に従事した際、税務署職員から「指導員の皆さんへ」というマニュアルを渡され、そこに「公用地の10%はOK」との記載がありました。現場の税務署職員に「これって何ですか?」と質問したところ、このローカルルールを説明してくれた訳です。
 あらためて言うまでもなく、税の大前提は租税法律主義(憲法84条)です。法律に規定のないいかなる取り扱いも税に関しては不可な筈です。今では考えられませんが、かつて政治的(超法規的)に導入され、それが今日まで沖縄の課税実務として継続してきたのでしょう。
 そのローカルルールについて、先日催された税務署との定例会議の席上、平成29年分の所得税確定申告からは適用を認めない旨の説明が税務署側からありました。納税者の意識の向上等、理由は色々あるのでしょうが、やはり沖縄県と国との関係がこじれているこの時期にこのような見直しが行われるということは政治的な思惑も見え隠れします。もっとも、政治的配慮によって導入された制度が政治的に手仕舞いする訳ですから、ある意味道理に適っているとも言えるでしょう。当職のように法的根拠のない軍用地控除ではなく「損金実額控除」を推進してきた税理士からすれば、ようやく制度が改善されたというのが正直な気持ちです。
 さて、そもそも軍用地控除は、実額控除をしている納税者には適用されませんでした。例えば、軍用地料としての不動産所得の他に事業所得があって、税理士に記帳代行や確定申告書の作成を依頼している場合、税理士への支払いは経費として実額控除になりますが、軍用地控除は適用されません。一方、軍用地収入が主たる収入で、税理士に確定申告書の作成を依頼していない場合は、経費の支払いがないのにも関わらず軍用地控除が適用されるという大変有利な制度になっていた訳です。ちなみに、軍用地収入が10万円でも1000万円でも軍用地控除は原則1割であることには変わりありません。この点でも税の基本原則である平等の原則に著しく反することは言うまでもありません。
 ちなみに、政治的配慮はそれとして、なぜ会計検査院や税理士会等、政治的に中立的な機関がこのローカルルールを看過してきたのでしょうか。国税庁、国税局、税務署は行政機関なので、内閣を組織する政権与党の意向を酌まざるを得ません。このような国の権力構造の下では、いかに優秀な税務官僚で組織される国税庁であってもその自浄作用を期待することはできません。
 この点、特に会計検査院は消費税益税問題等の税法の抜け道にも従来強い関心をもって指摘してきました。沖縄の軍用地控除のような法定外ルールについて、もし他の地域や団体にも存在するのであれば、国家財政に及ぼす影響と適正性の指摘に果敢に挑んでいただきたいものです。
 また、我々税理士についても、税理士法第1条に規定する「独立した公正な立場」で、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図るという使命を再認識する必要があるでしょう。その理由は、全ての納税者は法の下で公平に扱われるという前提で税務が成り立っているからです。この前提が崩れれば、法定外ルールやインターネットに溢れる税金に関する出所不明な情報によって税務の安定性が損なわれ、最終的にはその不利益は納税者が負うことになるからです。納税者の代理人である税理士には、「税務は法の下で公平である」という理念を通じて、そのような不利益から納税者を守る職責があります。

 さて、実務として軍用地控除廃止後どうするかですが、税理士に依頼している場合にはその支払い報酬を実額で経費とすれば良いでしょう。また、実額控除する支払いがない場合には、所得税の青色申告承認申請を行った上、要件を満たした上で10万円控除等を適用することになるかと思います。

【ご相談事例】共有名義の場合65万円 or 10万円?
2017年04月08日

【ご相談内容】
 兄と共有名義(50:50)で12室のワンルームマンションを貸付し、その不動産所得があります。それぞれが青色申告をしていますが、二人ともが65万円の青色申告特別控除を適用することはできるのでしょうか。

【結論】
 可能です。

【解説】
 ご相談の趣旨は、マンションを二人で共有している場合の「5棟10室基準」について部屋数を按分する必要の有無だと思われます。
 前回(3月26日付け最新のお知らせ)でご説明したように、租税特別措置法(第25条の2)では、65万円の青色申告特別控除の適用要件について次のように規定しています。

  • 1. 不動産所得又は事業所得を生ずべき事業を営む青色申告者であること。
  • 2. 正規の簿記の原則に従い取引を記帳していること。
  • 3. 貸借対照表、損益計算書、その他の計算明細書等を添付し、所定の事項を記載した申告書を期限内に提出すること。

 確定申告については税務署の考えを「忖度(そんたく)」した処理が散見されますが、税金の計算に関しては法律から逸脱することはあり得ません。 65万円の青色申告特別控除の適用要件も税法に規定されている通り、これ以上でもこれ以下でもありません。
 もちろん、「各自の持分ごとに部屋数を判断」などと言ったことはどこにも書かれていません。また、条理(物事の道理)を考えても、共有にすることによって不動産貸付事業に関する帳簿作成の手間はかえって増えるでしょう。

 税務署には確定申告書を見直して、税金を多く支払っている納税者に連絡する義務はありません。したがって、実際のところ65万円控除が可能であるにも関わらず「各自の持分ごとに部屋数を判断」し、10万円控除を選択されている方は多くいらっしゃるようです。

 それでは過去に遡って訂正すること(更生の請求)は可能でしょうか。答えは「上記1~3の要件を満たしていれば可能」です。更正の請求は過去5年に遡って(原則として法定申告期限から5年以内)可能なので、最大275万円(「65万円-10万円」の5年分)の所得が減額される可能性があります。

【ご相談事例】不動産所得(黒字)、事業所得(赤字)の場合65万円 or 10万円?
2017年03月26日

【ご相談内容】
 アパート2室の賃貸収入があります。今年はお店(飲食業)が赤字になってしまう見込です。この場合、青色申告特別控除65万円は事業所得から引くことができないので、不動産所得には5棟10室基準に満たない場合の青色申告特別控除10万円しか適用できないのでしょうか。

【結論】
 65万円を控除することができます。

【解説】
 租税特別措置法(第25条の2)では、65万円の青色申告特別控除の適用要件について次のように定めています。

  • 1. 不動産所得又は事業所得を生ずべき事業を営む青色申告者であること。
  • 2. 正規の簿記の原則に従い取引を記帳していること。
  • 3. 貸借対照表、損益計算書、その他の計算明細書等を添付し、所定の事項を記載した申告書を期限内に提出すること。

 また、控除額は次の1、2のうちいずれか低い額になります。

  • 1. 65万円
  • 2. 青色申告特別控除額を控除しないで計算した不動産所得の金額又は事業所得の金額の合計額(これらの所得のうちに赤字のものがあればゼロとして計算)

 つまり、65万円控除適用要件の結論は、「事業所得を生ずべき事業を営んでいて(黒字でなければいけないなんてどこにも書いていない!)、正規の簿記を行い(家電量販店等で購入できる数千円の会計ソフトが自動で集計してくれる会計処理が正規の簿記!)、貸借対照表、損益計算書等(先ほどの数千円の会計ソフトが自動で作成してくれます!)を添付した申告書を期限内に提出(申告期限に遅れたら10万円しか控除できません。注意!)」となります。

 現状、5棟10室基準に満たない大家さんにとっては、新たに事業所得を得ることができるお仕事を開始することが節税のヒントになるかもしれません。
 ちなみに、会社員の方が副業で得ることができる所得については、税務署から「事業所得ではなく雑所得ですよ」と指摘を受けるケースがあります。実際問題として事業所得 or 雑所得の区分に関してはグレーな部分があり(いわゆる総合的に勘案するため)、税理士でもその見解に差が生ずることがあります。微妙だな、と感じられたら税理士に相談してみてください。

【ご相談事例】出張手当に関する所得税の考え方
2016年03月15日

 出張の際に従業員や役員へ手当を支給することは一般的だと思います。一方、具体的な支給額についてはその金額の多寡について「もやもや感」を持ちつつ決めていることが多いのではないでしょうか。そこで今回はこの「もやもや感」を解消するために根拠法令等を参照しながら出張手当を整理しましょう。

● 所得税法上の出張手当の定義
 所得税法上の出張手当の入り口は給与所得であるということを確認します。ちなみに事業所得など給与所得以外の所得については、手当という概念すらあり得ません。その理由は、手当とは雇用された従業員等が支払う業務上の負担を、業務上必要な経費は原則として雇用主が負担するという考え方で補填されるものだからです。事業主 は自分のリスクで事業をしている、つまり雇われているわけではないので、業務上必要な経費を雇用主から当然に支給されるという考え方がそもそもないからです。
 給与所得とは、従業員や役員に支払う俸給や給与、賃金、歳費、賞与の他、これらの性質を有するものをいいます。そして給与等は原則として所得税の課税対象となります。その原則課税の例外規定として、「出張などのための旅費のうち、通常必要と認められるもの」が非課税給与(手当)として規定されています(所得税法9条1項4号)。この「出張などのための旅費のうち、通常必要と認められるもの」が所得税法上の出張手当の定義です。
 この所得税法の条文は出張手当を検討するにあたってとても大切ですので全文をご紹介します。
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所得税法第九条 次に掲げる所得については、所得税を課さない。
四 給与所得を有する者が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をし、若しくは転任に伴う転居のための旅行をした場合又は就職若しくは退職をした者若しくは死亡による退職をした者の遺族がこれらに伴う転居のための旅行をした場合に、その旅行に必要な支出に充てるため支給される金品で、その旅行について通常必要であると認められるもの
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● いくらまでが所得税非課税の出張手当なのか
 出張等のために従業員等が負担する費用のうち、その旅行について通常必要と認められるものが非課税出張手当だということがわかりました。では、具体的にその金額はいくらなのでしょうか。結論から言えば、その支給を受けた者の職務を遂行するために行う旅行の実情に照らして考えるということになります。例えば職位に関しても、役員の職務遂行と一般従業員のそれとは通常異なります。取引先、あるいは社内的にもその期待される職務遂行内容(責任と権限)は異なるからです。役員であれば役員として期待される服装、出張がなければ必要のなかった消耗品の類、出張先での情報収集費用、活動範囲があります。このような職位ごとの期待が明らかになればその出張手当の金額もおのずと決まるでしょう。実務を通しての当職の感覚では一般社員で一日当たり3,000円程度、そしてこれを基準として給与差、出張目的等を勘案して職位ごとの出張手当を定めるのが合理的だと考えます。
● 出張手当規程の必要性
 このように出張手当が非課税であるためには、その金額が合理的に定められ、会社として統一して運用されているかに尽きるでしょう。そのためには出張手当規程の備えが不可欠であると考えます。例えば次のような所得税法基本通達があります。
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(年額又は月額により支給される旅費)
28-3 職務を遂行するために行う旅行の費用に充てるものとして支給される金品であっても、年額又は月額により支給されるものは、給与等とする。ただし、その支給を受けた者の職務を遂行するために行う旅行の実情に照らし、明らかに法第9条第1項第4号《非課税所得》に掲げる金品に相当するものと認められる金品については、課税しない。
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 この通達は年額又は月額で支給される出張手当は出張手当という名目で支給していても原則給与ですよ、課税しますよ、と言っています。しかし、この通達の後段では、その支給を受けた者の職務を遂行するために行う旅行の実情に照らし、明らかに法第9条第1項第4号《非課税所得》に掲げる金品に相当するものと認められる金品については、課税しないとし、例外をうたっています。この通達の前段(課税)、後段(非課税)を客観的に明確にする方法の一つとして、出張手当の規程化(文書化)が有効であると考えます。規程化すれば、何が合理的な金額なのか、通常必要であると認められるものか、についてその都度税務当局に疎明をする必要はなくなるでしょう。
 従業員等に対して安定した所得税非課税である(税務調査官に給与として事実認定されない)出張手当を支給するためにも、税務調査官への疎明負担を低減するためにも、旅費規程の整備及び文書化は不可欠だと思われます。
● 出張手当は消費税の対象か
 最後に出張手当に関する消費税の課税関係を確認したいと思います。
 結論から言えば、その旅行に通常必要であると認められる部分の金額だけが仕入税額控除の対象となります。その通常必要であると認められる部分の金額の範囲は、所得税が非課税であるかどうかにより判定を行います(消費税法基本通達11-2-1、所得税法基本通達9-3)。
 つまり、出張手当に所得税が課されると源泉徴収の対象になるばかりではなく、消費税の観点でも仕入税額控除が使えないという二重の不利益が従業員等と事業主に生じることになります。充分に注意してください。

 

【注】
この文章は当職の法令解釈に基づくものです。実務への適用に関しましては顧問税理士等にご確認することをお勧めします。

市販薬に関する所得税軽減について
2015年11月20日

 11月20日(金)日本経済新聞朝刊で、厚生労働省と財務省が市販薬について早ければ2016年から家族合わせて年1万円を超える支払いをした場合は所得税を減らすことができる制度を与党に提案する旨の報道がされています。来年は参議院選挙が控えているため、このような社会保障費の削減という減税財源が見込める案は実現の可能性が高いと思います。

  現在でも市販薬についておなじみの医療費控除で所得税を減らす方法は有りますが、医療費控除は原則として年10万円を超える支出が控除額であるため、実際にはそれほど減税の恩恵を受ける家庭はありませんでした。しかし、厚労省は今回の減税案の対象は1000万世帯(日本の世帯数は5200万世帯ですので、約2割の世帯)を超えると予想しているそうです。

 現在の薬の購入については、「病院や診療所で処方される薬は7割引で買える」という制度です。もちろん病院や診療所で処方される薬は医療用医薬品ですので、有効成分の質と量は市販薬とは異なります。この違いを薬局(薬剤師)が購入者に説明したうえで、購入者が納得して通院することなく市販薬を購入しても何ら問題はありません。薬局を訪れる方の中には、病院へ行く機会費用(病院に行く時間を働いた場合に得ることができるお金)を考えると薬局で購入できる市販薬の方が実質的には安価という方が少なからずいるはずです。これが今回の減税案によって所得税、住民税、健康保険税が減るため、従来の病院(医療用医薬品)VS薬局(市販薬)での実質薬価の差はかなり縮小するとみてよいでしょう。

  今回の減税案の成否は、「薬局での薬剤師による健康相談の充実」にかかっているといっても過言ではありません。今後は、健康相談の充実を図るとともに、薬局経営における原価率の低減、市販薬以外の健康関連商品の品揃え、質の高い健康相談のための設備及び人材への投資、薬剤師の専門分野、経験及び経歴の開示、さらに薬剤師のパーソナルマーケティング(親しみやすさのアピールや「あの先生に健康相談したいから来店する」といった動機付け)等、来店者との信頼関係を一層密にする経営が必要な時代になりました。

 今回の減税案の政策目的は、高齢化で増大する社会保障費の削減ですが、一方で税法はこんなところでも税金を通じて私たちの習慣や薬局との関わり方を変える役割を担っているのです。

確定拠出年金制度をご存知ですか?
2015年04月27日

 意外と知られていませんが、この制度には次のようにかなり有利な税制上の優遇措置(節税)があります。

1. 掛金全額が所得控除対象(つまり、掛金が経費になるわけです)
【ご参考】
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/kyoshutsu/kazeigaku/kojin-nenkin.html

2. 運用により得られた利益は非課税

3. 受給時も退職所得控除や公的年金等控除の対象

 掛金は元本保証でも運用可。詳しくはお取引金融機関や税理士へ。