過去のお知らせ <相続・贈与>

【日本経済新聞記事】「家なき子成り」による節税
2017年12月04日

 政府は相続税回避行為の対策として、2018年度税制改正でいわゆる「家なき子成り」による相続税の節税も封じる方針のようです。
 「家なき子成り」とは、「亡くなった方(被相続人)と別居していて、かつ、3年以上自分の持ち家に住んでいない親族」に成ることです。小規模宅地特例の適用要件の一つとして、対象の相続人が「家なき子」である必要があるため、自分(相続人)の住宅を子らに生前贈与し、「家なき子」と成るスキームが相続税回避行為として問題視されてきました。

 小規模宅地特例については、土地の評価額を330㎡まで8割引するという節税効果が極めて高い特例です。この制度はそもそも「持ち家を持たない相続人が相続を機会に自宅を所有することになった場合にまで課税するのは酷ですね…」という立法趣旨であるため、実質的に持ち家を所有している人(担税力のある人)が特例を利用するのは公平の観点で問題ありというもの。
 11月30日付の日本経済新聞の記事によれば、相続時に住んでいる家がもともとは自分で所有していたものであったり、3親等内の親族が所有する家に住んでいたりする場合は特例の適用対象外とする案が有力なようです。
 しかし、他の方法で「家なき子」に成る方法も有りそうですので、税務当局とのいたちごっこはまだ続くのかもしれません。

【日本経済新聞記事】一般社団法人を使った節税
2017年12月03日

 一般社団法人は、営利を目的としない法人で、人が集まることによって法人格を取得して作ることができます。一般的には馴染みのない法人ですが、沖縄でも軍用地所有を目的として一般社団法人を利用する例があります。
 11月30日付の日本経済新聞の記事によると、2018年度税制改正の中で、一般社団法人を使った相続税の課税回避措置を講ずることが検討されているそうです。
 政府が問題視している一般社団法人の使い方は、相続税対策で一般社団法人を設立し、親(被相続人)の相続財産を一般社団法人に移し、法人の支配権も子(相続人)に移転するというものです。この仕組みの運用で、一般社団法人という箱に相続財産を入れて、理論上は子、さらには孫やその先の代まで非課税で遺産を相続できることになります。この方法は、相続税節税スキームの中では比較的単純なこともあって、オーナー社長の事業承継手法として普及していると言えるでしょう。

 しかし、一般社団法人を使った節税には注意点もあります。それは相続税法第66条4項に規定される租税回避防止規定です。当該条文の意味するところは、「持分の定めのない法人(一般社団法人等)を利用して相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められるときには、その法人を個人と見做してこれに相続税等を課税する」というものです。
 この租税回避防止規定に対して現行実務では、定款等に「解散した場合には残余財産が国等に帰属する」旨の定めをすることによって、「法人と個人の関係は完全に遮断されました」と「宣言」をします。まるで自分の資産であってないような状態と言ってよいでしょう。

 一方で、政府は事業承継対策税制という官製スキームを別途に用意しています。しかし、その適用要件が煩雑かつ制限が多いため、平成20年の制度開始以降、その利用が認定(相続税)959件、認定(贈与税)626件(平成28年9月末現在)と非常に少ない件数にとどまっています。
 このような状況下で、税の公平性の問題はあるにせよ事業承継の簡便的な手法とも言える一般社団法人スキームを封じることで、我が国にとって喫緊の課題である事業承継を停滞させてしまっては元も子もないのではないでしょうか。
 当職は、「事業承継対策税制の利用を促す制度改正」と「税の公平性の観点での一般社団法人スキーム防止措置」とを政策パッケージ(注)にすることなしでは、事業承継問題の本質の解決にはならないと考えています。

(注)その後の報道で事業承継対策税制も2018年度税制改正で拡充されることがわかりました。その目玉は納税猶予について全株式の100%に改正されるということです(現行法では53%)。しかし事業承継の際、後継者が感じるハードルとして税が占める割合はいったいどれほどのものなのでしょうか。
 次世代の経営者が事業承継に当たって憂慮すること、そして、有能な後継者であればあるほど望む事、それは「今の外部環境に立ち向かえる自由な経営」なのではないでしょうか。この点、旧世代の経営者が築いた設備、人件費等の固定費が競合他社との競争の足かせになっているのであれば、まずはそれを整理したいはずです。事業承継対策税制が承継される事業の雇用等に関する要件を変えない方向であるなら、その方向性を起業家精神溢れる後継者が受け入れることは難しいと言わざるを得ません。
 「起業家精神溢れる次世代経営者の自由な活動を保証する仕組みの整備」こそが事業承継対策の本丸であるような気がします。皆さんはこの点どのようにお考えになるでしょうか。

案外盲点!「遺産分割協議成立の難易度、実は「難関」」
2017年08月15日

 遺産分割協議とは、相続人全員の合意の下で被相続人(亡くなった方)の遺産の分け方を決める話合いです。各相続人に帰属する前の遺産については、相続人全員が法定相続分の割合で共有していることになります。そのため、遺産分割協議成立前に各相続人が遺産に係る預金の解約や有価証券の処分をしたり、不動産からの賃料を費消したりすることは当然できません。
 遺産分割協議が成立するとその内容を書面にします。これが遺産分割協議書です。遺産分割協議書には相続人全員が署名(記名でも可)、押印(実印が必要)することによって、第三者に対して各相続人の相続財産が確定しました、という証明の効果が生じます。この遺産分割協議書の証明をもって、法務局で不動産の名義変更が可能となり、金融機関で預金の引き出しが可能になる等、相続手続きが一気に進行することになります。
 もうお分かりのように、このような対外的に強い証拠力を持つ書面ですので、真の相続人が誰かについては、「相続人全員が実印をもって押印」することで担保されることになります。そして、事情によってはこの実印押印が非常に難関になってしまうことがあります。各相続人にとっては、法律によって自分の相続人としての権利が強固に守られていると感じる瞬間でしょう。
 この強力な権利の裏返しで、仲が悪く何年も疎遠になっている兄弟にも遺産分割協議に参加させ、あるいは遺産分割協議書の内容に同意させ、それを実印押印という形で結実させなければなりません。
 またこんなケースもしばしばあります。遺産分割協議には期限がないため、相続が発生して何年も過ぎた後、なんらかの必要にせまられて遺産分割協議書を作成しようとしますが、当初の相続人が死亡しており、その配偶者や子に相続権が相続されているケース。その子のうち一人が外国で暮らしている…。彼(彼女)って実印を持っているのか、確認しようにも連絡がとれない…等々。

 以上のような、ある意味ではわかり易い困難さを上回る、実務でしばしば遭遇する事例は次のようなケースです。
 被相続人が生前の頃は、皆そこそこ仲の良い関係を維持していたので、当然相続人間の連絡は問題なく、遺産分割手続き自体も問題なくできそう…、しかし、遺産分割協議書(案)を実際に読んだらそれぞれの言い分がふつふつと湧き出してきた。いざ実印押印となって、「本当に自分の相続分はこれでよいのか、不公平ではないか…、自分は他の兄弟より亡くなった父の面倒をよく見ていた…等々」となってしまうのはザラです。実はこのようなケースが遺産分割協議不調の原因として一番多く、遺産分割協議の難易度、実は「難関」と考える所以です。

 相続未登記等で所有者が分からなくなっている可能性がある土地の総面積が、九州より広い約410万ヘクタールに達するとの推計結果を、有識者でつくる所有者不明土地問題研究会(座長・増田寛也元総務相)が2017年6月26日に公表しました。原因は遺産分割協議が頓挫してしまい、時が経って関係者が消滅してしまった結果と推察されます。

 次回は遺産分割協議が成立しない場合の税務上の不都合な事実についてご説明します。

税理士業務のヒヤリハットをご紹介します。第1回目は、「案外盲点!「遺産分割協議」」です。
2017年08月10日

 税理士業務を通じて経験したヒヤリハットに加えて、当事務所がお引き受けした相続に関する案件、セミナー等を通じて皆様からいただいたご質問の中から、専門家の常識と世間のそれが異なるケースを「案外盲点!」シリーズとしてご紹介していきます。トラブルの予防としてお役立てください。

************************

 案外盲点!「遺産分割協議」まえがき

 案外知られていないことですが、民法(第882条~第1044条)では遺産分割について、被相続人(亡くなった方)の意思を優先的に尊重するため、原則として遺言書によって遺産を各相続人に分けます(但し、相続人全員の同意があるときには、全相続人の協議(遺産分割協議)による分割も可)。したがって、遺産分割協議の法的立ち位置は、遺言書が存在しない場合に、次の手段として、相続人間の話合いで遺産を分割する手続と言えます。つまり、遺産分割の手段として、遺言を主とするならば、協議はあくまでも従たる存在にすぎません。
 しかし実際には、遺言分割の割合は約1割(人口動態統計の年間推計(厚生労働省)、日本公証人連合会統計、司法統計から算出)にすぎず、我が国では協議分割での相続手続が未だ主流と言えるでしょう。
 このため、相続税に関する税務代理や財産管理業務をお引き受けする税理士は、遺産分割協議手続、そして協議が成立しない場合の法的手続き(調停、審判)を十分に勘案した上で、該当事案に関する説明責任を果たす必要があります。この対応が不十分である場合には、専門家責任の観点から損害賠償のリスクが生じるでしょう。

 これからシリーズで、当事務所がお引き受けした相続に関する案件、セミナー等を通じて皆様からいただいたご質問の中から、専門家の常識と世間のそれが異なるケースを「案外盲点!」シリーズとしてご紹介していきます。当事務所に蓄積されている「経験」を皆様のトラブルの予防としてご利用いただければ幸いです。
 この経験の中には、「もう少しうまくできたのでは」といったものも敢えて含めました。その意味は、わたなべ事務所の大切な理念として、「失敗から謙虚に学ぶ」ことをモットーにしているからです。
 次回は早速本論に入ります。テーマは、案外盲点!「遺産分割協議の難易度、実は「難関」」です。

「法定相続情報証明制度」について
2016年11月23日

 相続手続きをご経験された方ならわかる、相続手続きのお困り例。

 親が亡くなった悲しみも癒えないうちに、相続人はまず銀行等に出向き被相続人の預金払戻し等の手続きを行う。預金払戻しには必要書類を記載するだけでは済まず、銀行等から「戸籍関係書類等」の提出を要求される。葬儀費用等を早く支払う必要のある相続人にとっては、被相続人の預金口座を一刻も早く解約したいところ。そこで一旦自宅に戻り「戸籍関係書類等」の収集を試みる。まず被相続人の生前の住所地にある役所で戸籍関係書類を申請したがそこは本籍地ではなかった…。本籍がある市町村を調べるとそこは訪れたことなどない遠隔地の役場…。気を取り直して郵送で戸籍関係書類を請求することにした。本人証明書類を用意し、請求書を書き、発行手数料である定額小為替と返信用封筒を入れて無事投函。一週間位で請求した戸籍関係書類が届く。繁忙期ではあったが早速休暇届を会社に提出し、再度銀行等に出向き用意した書類を提出したのだが、書類の不備、不足を指摘されてしまい、再び戸籍関係書類の請求…。預金払戻しでこんなに苦労するのなら、銀行よりもはるかに敷居の高い法務局での不動産の名義変更なんてとても無理だ…。名義変更をしなければならない不動産は沖縄県、愛知県、東京都にある。そう言えば不動産の相続登記はその不動産が所在する法務局ごとに申請すると聞いたことがある…。ということは、戸籍関係書類等一式も何セットも用意することになるのか。法務局も平日しか対応していないのでまた職場を休まなければならない…、疲れた…、なんで自分だけがこんなに苦労するのだろう…、怒りすら覚えてきた…。

 現在、法務省は「法定相続情報証明制度」を検討しており、来年2017年5月を目途に制度の運用開始を予定しています。
 法定相続情報証明制度とは、被相続人に関する戸籍関係書類等を法務局に提出し、法務局が戸籍関係書類等の代わりになる1通の証明書を発行する制度です。この制度のポイントは「相続手続きの際に、銀行や法務局ごとに戸籍関係書類等を提出する必要が無くなる」こと。そして、法定相続情報証明制度に関する法務省の政策目的は、「土地建物の相続登記促進」です。

 結論から先に述べますと、残念ながらその効果はあまり期待できないかもしれません。その理由は、証明書を発行してもらうために最初の法務局に提出する戸籍関係書類等は今までと同じく相続人等が収集し、作成しなければならないからです。その手間は省けません。
 また、この証明書は基本的な相続関係にのみ対応し、相続放棄や遺産分割協議等がある場合には、別途、遺産分割協議書等を銀行や法務局に提出する必要があります。
 高齢化の進行とそれに伴う相続の増加によって、都市部でも放置された空き家が散見されますが、都市部の場合の不動産放置の原因は相続トラブルや税金等で相続人が決まらずやむなく放置されているケース、言わば消極的な不動産放置でしょう。
 一方、地方部の場合には、遺産分割の合意はできており、あとは戸籍関係書類等を収集し、事務的に遺産分割協議書を作成すれば何の問題もなく相続手続きが完了する場合であっても、次の算式のため意図的に手続きをしない場合が多いのが実情でしょう。

相続不動産の価値 < 相続手続きに関する費用(手間を含む)

 言わば積極的な不動産放置です。この点では、法定相続情報証明制度は地方部の相続登記促進に僅かな効果が期待できるのかもしれません。
 しかし、積極的な不動産放置を解消するためには更なる相続手続きに関する費用引き下げが必要でしょう。相続登記がタイムリーに行われないことによって、地方部で放置不動産が増えてしまう、このことがもはや個人や親族だけの問題ではなく、地域の荒廃といった社会の不利益になるのであれば、相続手続き費用を公的に補助する等の更なる手当が必要となるのではないでしょうか。例えば、戸籍関係書類等の収集、作成に関しては、その目的に応じて税理士、司法書士、弁護士等が職権で代行することが可能です。この費用を公的に助成することも一考に値するかもしれません。
 また、相続しても使わない土地のために固定資産税を延々と払い続けること、地方自治体によっては国民健康保険料が上がることに抵抗感があるというご相談もしばしば受けます。国や地方自治体が収用(買取り)を行い、環境保全等に役立てるという政策も人口減少時代の日本にとって必要な社会的コンセンサスだと思います。

相続空き家対策税制(減税の要件、必要書類について)
2016年10月03日

 前回(2016.2.9)ご説明した相続後の不動産を売却する場合の所得税の減税措置に関して、減税を受けるための要件と必要書類が明らかになりましたのでご紹介します(租税特別措置法35条)。

【要約】
1.相続人が共有する場合でもOK
2.相続開始直前に被相続人が一人で住んでいたことが条件
3.確定申告書に「被相続人居住用家屋等確認書」の添付が必要
4.家屋を売却する場合には「耐震基準適合証明書」の添付が必要
5.更地にして売却する場合には相続してから売却するときまで敷地を利用していないことの証明が必要

 1に関しては、例えば兄と妹で二分の一ずつ共有相続した場合には兄妹それぞれが3000万円の特別控除を利用することができます。相続後すぐに売却の予定がないのであれば共有は後々の権利関係が複雑になりがちなのであまりお勧めできませんが、相続後すぐに売却するのであれば特別控除が共有者の人数分使用可能であることから、節税効果は非常に高いといえるでしょう。
 2で注意しなければならないのが、相続発生時に被相続人が老人ホームに入居していた場合には適用されないということです。これは相続開始直前に被相続人が当該不動産に一人で住んでいたことが条件だからです。老人ホームに関連した被相続人の居住要件については、小規模宅地特例と取り扱いが異なるため注意が必要です。
 3の確認書は空き家の所在する市区町村に申請します。自治体によっては申請してから確認書の発行まで10日以上かかる場合もあるようなので早めに対応するようにしてください。
 4については建築士等に証明書を書いてもらうことになります。当事務所で取り扱った事案では5万円前後の費用がかかりました。
 5は「空き家の敷地等の使用状況がわかる写真」等で証明することになります。

 今回の減税措置は売却をする相続人一人当たり3000万円の所得控除という金額の大きさ、また、立法趣旨が「相続空き家の廃墟化の防止とその有効活用の促進」と読めることから、減税となる税法上の要件もそれなりに厳格になっています。裏を返せば、要件をそろえることに失敗してしまう(政策減税の趣旨に合わない)と、多額の譲渡所得税が課税されることになり、「こんなことなら売らなければよかった…」などという残念な結果になりかねません。また、今回ご紹介した他にも法律適用のための要件(例えば売却金額は1億円以下等)がありますので、手続きに自信や時間のない方は早めの専門家へのご相談をお勧めします。

【ご相談事例】遺産分割協議が土地の評価額で難航
2016年08月22日

【ご相談内容】
 ご相談者Aさんは妹と遺産分割協議を始めました。主な遺産は不動産です。先祖から沖縄在住である長男Aさんは先祖伝来の土地を相続する必要があるため、妹には不公平になる分を現金で償うことにしました。ここで問題になったのが土地の評価額です。Aさんはそれを3000万円と計算し、妹は5000万円であると主張して譲りません。土地の価格を高く見積もるほど妹が受け取る代償金は多くなります。どのようにすれば良いでしょうか。

【結論】
 土地の評価方法は複数あり、遺産分割にあたってどの評価方法を使用するかについては当事者が合意さえすれば自由です。家庭裁判所での調停の場合には、固定資産税評価額を基に評価することで良いか調停委員会が当事者に確認し、納得できない当事者が資料や証拠を提出して反論するといった流れになっているようです。
 ちなみに倍率方式が適用される土地に関しては、そのまま固定資産税評価額を使ってしまうと時価と固定資産税評価額とのかい離が大きくなっているので注意が必要です。

【解説】
 土地の評価に関して調停実務(調停委員のための遺産分割基本マニュアル 大阪家庭裁判所 家事第3部 遺産分割係)では、調停委員会が当事者に対して固定資産税評価額を基に評価することで良いか確認し、納得できない当事者については他の資料(例えば、相続税評価額(路線価)、不動産業者の見積書(査定書)等)の提出を促しているようです。
 最終的に当事者間の合意に至らない場合には裁判所が選任した不動産鑑定士の鑑定が参考にされます。この場合の鑑定費用は当事者負担になります。
 また、相続税の申告が必要な場合には税理士が税額算出のために土地の評価を行っています。税務上の評価基準(財産評価基本通達)は時価とのかい離が比較的少ない上、土地の個別事情を補正という形で調整しています。したがってこれをもとに遺産分割協議を行っても良いでしょう。

 ちなみに、【結論】で述べた「倍率方式」とは、固定資産税評価額に国税局長が一定の地域ごとにその地域の実情に即するように定める倍率を乗じて計算した価格によって評価する方式をいいます。つまり、相続税や贈与税の計算では固定資産税評価額が(安すぎて)そのまま使うことは適切でないので、相続税等の申告には固定資産税評価額を何倍かしてそれを「適正な時価」として使ってくださいね、という趣旨の規定です。地方部は倍率方式が適用される土地が多いので注意してください。
 当職は遺産分割調停で当初から倍率方式が考慮される事例は少ないと感じています。したがって、利害が生じる当事者から積極的に倍率方式に基づいた評価額の増額を主張する姿勢が必要だと思います。

【ご相談事例】自分の死後、配偶者が安心して自宅に住み続けて欲しい(遺留分 家族信託 相続税)
2016年06月21日

【ご相談内容】
 ご相談者はとても仲の良い高齢のご夫婦。
 夫「最近、将来のことを考えると不安でなりません。息子が1人いますが、残念ながら私たち夫婦はその嫁とどうも関係が良くありません。私の財産は自宅の他にはこれといったものがなく、現預金等の金融資産は僅かです。
 気になることは私の遺産に関する「遺留分」です。妻に遺産を全て相続させる旨の遺言書を書こうと考えていますが、この場合でも息子は1/4の遺留分を持っています。自宅の価値は知り合いの不動産業者から1億円程度と言われました。息子が遺留分を主張してきた場合2500万円を分け与える必要があり、妻は私の死後金銭で支払うことは自宅を処分しない限り到底できません。
 息子は今のところ「自分は遺留分なんて主張しないから、母さんが安心して今の家に住み続ければいいよ」と言っていますが、嫁の言いなりになる傾向があることが気になります。私の死後、嫁が遺留分を強力に主張してきた場合に息子は嫁を説得しきれるとは思えません。
 金銭で遺留分を支払えない場合は自宅を処分するか、自宅を共有名義にするほかないのでしょうか。なにか他に良い方法はありませんか…。」

【結論】
1.家族信託を使って、妻の居住権を安定化させる方法が考えられる。具体的には「信託受益権の複層化信託」を用いて、「土地建物を住まいとして使う権利」と「不動産そのものを所有する権利」に分解し、前者を妻、後者を息子に相続させる。そして妻の死後、息子は「土地建物を住まいとして使う権利」を相続する。
2.ここでは、複層化信託の信託受益権の相続税評価額算定が全体のスキームの肝となる。具体的には財産評価基本通達202を用いて合理的に推算し、信託受益権を評価する。
3.信託法は比較的新しい法律であり、特に複層化信託の経験がある専門家は多くない。さらに、このスキームが関係した遺留分を巡っての判例がないことや、信託受益権の相続税評価額に推算が入る故に評価の恣意性を排除しきれないため、評価額を巡って税務当局と意見が分かれる可能性があるので注意を要する。

【解説】
 最近多いご相談です。国税庁の調査(平成26年分の相続税の申告状況について)によれば、不動産が相続財産に占める割合は41.5%です。その割合は年々減少傾向にあるものの、主たる相続財産としての地位は当分揺るがないと思われます。
 このような日本における相続財産に占める不動産割合の高さと若年世代である相続人の経済状態の悪化が相まって、相続財産が居住用不動産である場合に親の持ち家に子が頼る傾向があるように感じます。そして、問題を複雑化させるのが子の配偶者との関係性と言えるでしょう。

 このような「困った」に対する有力な処方箋として昨今専門家の間で用いられる手法が「信託」です。今回のご相談のように、配偶者の「居住権」を担保する仕組みとしては信託の応用である「複層化信託」が有効であると考えられます。そして、複層化信託を組成する際に難易度が高い部品が税金です(後述します)。

  複層化信託とは、信託受益権(ご相談の事例の場合は、受益者としての配偶者と子が持つ権利のこと)に対して、「土地建物を住まいとして使う権利(収益を得る権利)」と「不動産そのものを所有する権利(元本を所有する権利)」とに分けた信託のことを言います。
 例えば、マンゴーの木とそこに成ったマンゴーの実があるとしましょう。収益を得る権利はマンゴーの実を収穫しそれを食する権利。一方、元本を所有する権利はマンゴーの木を所有する権利。ご相談の事例の場合は、妻はマンゴーの実を安心して収穫し食べ続けることができれば良いわけです。一方、子は母親が死亡した後確実にマンゴーの木を所有することができれば安心です。
 さらに遺留分の問題については、「収益を得る権利」も「元本を所有する権利」もともに金銭的価値を有するので、「元本を所有する権利」の価値が遺留分を上回れば、信託を使わなかった場合に妻が子に支払う義務のある代償金の問題も解決するでしょう。

  先に述べたように複層化信託を組成する際に注意しなければならない点は税金です。複層化信託を使用するにあたって収益受益者が取得する収益受益権の税務評価方式は次の通りです(受益者連続型信託の評価は下記と異なります)。
*****
1.収益受益権

  • (ア)信託の効力発生時において受益者が将来受けるべき利益の額(受益者の存命年数や居住の価値を推算)
  • (イ)推算した価額ごとに課税時期からそれぞれの受益の時期までの期間に応ずる基準年利率による複利現価率を乗じる 

2.元本受益権

  • (ア)信託財産の価額を算出
  • (イ)上記から収益受益権を控除

3.信託受益権=1+2
*****

【ご相談事例】残債付き不動産の贈与(贈与税)
2016年05月14日

【ご相談内容】
 ご相談者の一族は先祖からの沖縄在住者。
 父の連帯債務者(連帯保証人ではない)であるご相談者(長男)が、父からローンを返済し終えていない住宅を贈与すると持ち掛けられている。ちなみに、父は高齢であり、年金以外の収入は今後期待できないことから住宅ローンの債務者名義を全て自分に変更することが贈与の条件らしい。また、父から「いずれは長男であるお前がトートーメー(注)を相続するのだから、この際事業上の借金もセットで肩代わりしてくれないか。」と頼まれて悩んでいる。税金について留意点を教示してほしい。

(注)「トートーメー」とは、沖縄で「位牌」を表す方言。沖縄の風習でトートーメーは長男が相続し、トートーメーを相続するということは、基本的には、その家の全財産がセットでついてくるということを意味する。「長男」が中心であるトートーメーの考え方は、個人の権利、両性の平等に基づいた現代の法制度(特に民法)と大きく異なるため、しばしば沖縄の相続問題を複雑にしている。

【結論】
1. 負担付贈与の場合には、対象である土地は原則として地価公示法に基づく公示価格で評価することが相当と思われる。普通の贈与(以下、一般贈与)の場合は、路線価等(公示価格の概ね70~80%程度)を用いるのに比べて、負担付贈与の場合は土地評価額が高く算出され、結果として予期せぬ贈与税となる場合があるので注意を要する。

2. 負担付贈与の際に受贈者が肩代わりした借入金の価格>不動産の購入時の価格の場合には、贈与者は負担付贈与によって経済的利益を得たものと認定され、譲渡所得税の課税リスクがあるので注意を要する。

3. 負担付贈与をしないまま父が亡くなり、団体信用生命保険契約によって、父である被保険者の死亡を事由に支払われた保険金が住宅ローンの債務に充当され、債務全額が消滅し、その結果被保険者以外の連帯債務者に係る債務の消滅部分がある場合には、その債務消滅金額が経済的利益と認定され、一時所得として所得税が課税されるリスクがあることに注意を要する。

【解説】
 さて、今回の主な論点は、結論1負担付贈与(民法553条)の場合の土地に関する評価方法です。
 では、そもそも何故負担付贈与と一般贈与とで不動産の評価方法が異なるのでしょうか。これは、負担付贈与の場合は一般の相続や遺贈のような偶発的かつ無償取得の場合と異なり、贈与される側は負担を判断材料として受贈を決定できるという自由な取引だからです。
 つまり、一般贈与では単純に贈与者が「差し上げます」、受贈者が「ありがとうございます」で贈与が成立しますが、負担付贈与では贈与者が「この条件でよろしければ差し上げます」、受贈者が「その条件で頂きます」で贈与が成立します。
 かつては、この負担付贈与を利用した租税回避行為(実勢価格と相続税評価基準である路線価等の差を利用して、負担付贈与の法形式を仕組み、相続税の回避を目論む)が実務上利用されていた時代がありました。しかし、現在では国税不服審判所の裁決例や通達(負担付贈与又は対価を伴う取引により取得した土地等及び家屋等に係る評価並びに相続税法第7条及び第9条の規定の適用について 平成元年3月29日(筆者注:まさにバブル期の地価高騰の時代ですね))で課税実務がある程度定着したことから、このような租税回避行為は事実上不可といえるでしょう。
 なお、土地は個別性が比較的高い資産ということもあり、時価として公示価格が相応しくない(高過ぎる!)のではと思われるケースも当然あると思います。このような場合の対処方法としては、公示価格を時点修正するため、不動産鑑定士に鑑定書の作成を依頼すること等が考えられます。 

 また、結論2の譲渡所得課税に関しましては、上記のように負担付贈与は贈与者と受贈者間の個別かつ自由な取引です。したがって贈与者である父親の側から見ると、長男が肩代わりした借入金の価格で不動産を長男に「譲渡」したことと実態的には何ら変わりはありません。
 つまり、負担付贈与の際に長男が肩代わりした借入金の価格>不動産の購入時の価格の場合には、父は経済的利益を得たものと推定され、譲渡所得税を課税される可能性があります。 

 結論3に関しましては、今回当事務所でご相談を受けたケースではご相談者から事実を口頭で確認し、その結果所得税の課税リスクが認められたため、ご相談者にその旨注意喚起しました。
 結論3に関する課税リスクの検討のためには、債権者である金融機関に対する債務名義変更に関する告知と許諾の有無、登記上の原所有権割合、その後の変更登記、さらには実際の債務負担者等に関する事実認定が必要です。これらの認定事実に基づいて当該保険契約との関係を精査する必要があることから、具体的な税務意見が必要な場合には参考資料をご用意の上、税理士等の専門家にご相談されることをお勧めします。

【ご相談事例】誤解しがちな配偶者の税額の軽減(相続税)
2016年04月14日

 当事務所でご対応した配偶者の税額の軽減(相続税)に関する税務相談の実例をご紹介します。

【ご相談内容】
 家族は夫と子が一人。最近家族で相続について話し合っている。相続税の課税価格を計算したところ、相続財産が2億円程度あった。子は相続放棄すると言っている。知り合いに話をしたところ、妻である自分だけが相続する場合には相続税は納めなくても大丈夫、と聞いたが本当でしょうか??

【結論】
 子が相続放棄しても、その親(被相続人の配偶者)が「実際に相続する遺産」と税法上の「配偶者の法定相続分相当額」は異なります。このご相談の場合は、配偶者の法定相続分相当額(遺産の1/2)は変わらず、この金額で配偶者の税額軽減額を判定することになります(相続税法第19条の2第1項二イ)。

【解説】
 配偶者の税額の軽減とは、被相続人(亡くなった方)の配偶者が遺産分割や遺贈により実際に取得した正味の遺産額が、次の金額のどちらか多い金額までは配偶者に相続税がかからないという制度です。 

(1) 1億6千万円
(2) 配偶者の法定相続分相当額 

 例えば、相続人が配偶者のみの場合、課税価格100億円の相続財産を相続しても100億円=(2)法定相続分相当額、であるため相続税はゼロとなります。ちなみに、この軽減措置を受けるためには、税額軽減の明細を記載した相続税の申告書を原則として申告期限までに税務署に提出することが要件になります。

 配偶者が知らなかった法定相続人が他に居られる場合には相続計画が変わってしまう場合がありますので注意が必要です。また、認知されていない子は法定相続人ではありませんが、相続発生後にDNA鑑定で親子関係が証明された場合(死後認知)には相続人の地位を得ることになります。

« Older Entries