【ご相談内容】
ご相談者の一族は先祖からの沖縄在住者。
父の連帯債務者(連帯保証人ではない)であるご相談者(長男)が、父からローンを返済し終えていない住宅を贈与すると持ち掛けられている。ちなみに、父は高齢であり、年金以外の収入は今後期待できないことから住宅ローンの債務者名義を全て自分に変更することが贈与の条件らしい。また、父から「いずれは長男であるお前がトートーメー(注)を相続するのだから、この際事業上の借金もセットで肩代わりしてくれないか。」と頼まれて悩んでいる。税金について留意点を教示してほしい。
(注)「トートーメー」とは、沖縄で「位牌」を表す方言。沖縄の風習でトートーメーは長男が相続し、トートーメーを相続するということは、基本的には、その家の全財産がセットでついてくるということを意味する。「長男」が中心であるトートーメーの考え方は、個人の権利、両性の平等に基づいた現代の法制度(特に民法)と大きく異なるため、しばしば沖縄の相続問題を複雑にしている。
【結論】
1. 負担付贈与の場合には、対象である土地は原則として地価公示法に基づく公示価格で評価することが相当と思われる。普通の贈与(以下、一般贈与)の場合は、路線価等(公示価格の概ね70~80%程度)を用いるのに比べて、負担付贈与の場合は土地評価額が高く算出され、結果として予期せぬ贈与税となる場合があるので注意を要する。
2. 負担付贈与の際に受贈者が肩代わりした借入金の価格>不動産の購入時の価格の場合には、贈与者は負担付贈与によって経済的利益を得たものと認定され、譲渡所得税の課税リスクがあるので注意を要する。
3. 負担付贈与をしないまま父が亡くなり、団体信用生命保険契約によって、父である被保険者の死亡を事由に支払われた保険金が住宅ローンの債務に充当され、債務全額が消滅し、その結果被保険者以外の連帯債務者に係る債務の消滅部分がある場合には、その債務消滅金額が経済的利益と認定され、一時所得として所得税が課税されるリスクがあることに注意を要する。
【解説】
さて、今回の主な論点は、結論1負担付贈与(民法553条)の場合の土地に関する評価方法です。
では、そもそも何故負担付贈与と一般贈与とで不動産の評価方法が異なるのでしょうか。これは、負担付贈与の場合は一般の相続や遺贈のような偶発的かつ無償取得の場合と異なり、贈与される側は負担を判断材料として受贈を決定できるという自由な取引だからです。
つまり、一般贈与では単純に贈与者が「差し上げます」、受贈者が「ありがとうございます」で贈与が成立しますが、負担付贈与では贈与者が「この条件でよろしければ差し上げます」、受贈者が「その条件で頂きます」で贈与が成立します。
かつては、この負担付贈与を利用した租税回避行為(実勢価格と相続税評価基準である路線価等の差を利用して、負担付贈与の法形式を仕組み、相続税の回避を目論む)が実務上利用されていた時代がありました。しかし、現在では国税不服審判所の裁決例や通達(負担付贈与又は対価を伴う取引により取得した土地等及び家屋等に係る評価並びに相続税法第7条及び第9条の規定の適用について 平成元年3月29日(筆者注:まさにバブル期の地価高騰の時代ですね))で課税実務がある程度定着したことから、このような租税回避行為は事実上不可といえるでしょう。
なお、土地は個別性が比較的高い資産ということもあり、時価として公示価格が相応しくない(高過ぎる!)のではと思われるケースも当然あると思います。このような場合の対処方法としては、公示価格を時点修正するため、不動産鑑定士に鑑定書の作成を依頼すること等が考えられます。
また、結論2の譲渡所得課税に関しましては、上記のように負担付贈与は贈与者と受贈者間の個別かつ自由な取引です。したがって贈与者である父親の側から見ると、長男が肩代わりした借入金の価格で不動産を長男に「譲渡」したことと実態的には何ら変わりはありません。
つまり、負担付贈与の際に長男が肩代わりした借入金の価格>不動産の購入時の価格の場合には、父は経済的利益を得たものと推定され、譲渡所得税を課税される可能性があります。
結論3に関しましては、今回当事務所でご相談を受けたケースではご相談者から事実を口頭で確認し、その結果所得税の課税リスクが認められたため、ご相談者にその旨注意喚起しました。
結論3に関する課税リスクの検討のためには、債権者である金融機関に対する債務名義変更に関する告知と許諾の有無、登記上の原所有権割合、その後の変更登記、さらには実際の債務負担者等に関する事実認定が必要です。これらの認定事実に基づいて当該保険契約との関係を精査する必要があることから、具体的な税務意見が必要な場合には参考資料をご用意の上、税理士等の専門家にご相談されることをお勧めします。