日頃お世話になっているお礼として、取引先等に商品券を配布するのはよくあることでしょう。配布商品券は、決算までに配布すると予定されている場合には購入時に経費処理、決算期末をまたぐ場合は未配布商品券を貯蔵品として貸借処理し、配布時に経費処理をします。いずれにしても事業者は「商品券配布先リスト」を作成して管理している筈です。
この「商品券配布先リスト」の記載内容と信憑性を巡って税務署が配布商品券の損金性を否認し、裁判でも税務署が勝訴した事件をご紹介します。
1. 法人税法の考え方
法人が支出する経費は、当然に「業務との関連性」がなければ税務上の経費(損金)に算入することはできません。損金は製造原価のように業務との関連性が比較的分かりやすいものから、販売費や一般管理費のようにその支出の範囲が比較的広いものまで様々です。
パン製造販売業を例にご説明しましょう。小麦やバターなどの原材料はパンの製造原価であり、基本的に事業関連性を疑う余地はありません。一方、同級生でもある取引先の小売店の担当者に対して、いつもお世話になっているお礼としてお食事にご招待したとしましょう。その経費は交際費として「業務との関連性」があるのか、旧知の同級生との交友を深めるためであるのか、判断が微妙になってきます(実際はこのようなケースであれば仕事とプライベートは混然一体としているのだと思います)。ちなみに税理士や税務調査官、裁判官が証拠や心証に基づいてこのような判断をすることを事実認定といいます。また、費途が明らかでない支出(費途が明らかでなければ事業関連性の有無すら認定できません)については、法人税法上使途不明金(法人税法基本通達9-7-20)となります。
次に、法人が取引先に配布した商品券は交際費ではなく使途不明金であると税務署が認定し、納税者が提訴した訴訟の判決要旨(原告納税者敗訴)です。
2. 判決要旨(水戸地方裁判所 平成25年(行ウ)第22号 平成27年1月29日判決 原告納税者が東京高等裁判所に控訴)
会社 が提出した商品券配布先リストについて裁判所は次の事実認定を行い、納税者の訴えを退けました。
(ア)配布先に対して何枚の商品券を配布したのか明らかでない
(イ)配布先との具体的関連性が明らかでない
(ウ)個々の配布先に対する配布金額等が明らかにされていない
(エ)そもそもこの配布リストが客観性に欠け、信用性が低い
この判決要旨から、「法人がどのような資料を用意すれば商品券購入費用が損金となるのか」を推測することができるでしょう。
商品券購入費用に関してこのような情報を網羅した「商品券配布先リスト」を法人が事前に作成することが、納税者と税務署とのやり取りによって生じる余計な手間と費用をかけない最善の方策だと思います。ちなみに、疎明資料作成の有用性に関しては商品券購入費用に限ったことではなく、税務調査での冤罪 を防止する有効な手立てといえるでしょう。