最近新聞等で税務当局が高層マンションの売買等を通じた過度な節税(いわゆるタワマン節税。税務上の資産評価額と実勢価格の差を利用した節税です。)を問題視し始めたという報道がされています。1年前に当職がタワマン節税のリスクについて事務所通信でお伝えしたところですが、近ごろ国税庁の監視強化事案として世間の注目を集めつつあるようです。しかし、タワマン節税を富裕層の特権として批判的に伝える報道、あるいは「行き過ぎた節税策と国税庁が判断すれば追徴課税される」等の税務の観点で誤解を招きかねない表現が散見されます。そこで、税理士としてタワマン節税の税務リスクを今一度整理してみましょう。
まず、タワマン節税の基礎として理解すべきことは、タワマンに対する相続税法上の評価の原則は時価評価であること(相続税法22条)。そして、税務当局がタワマンの評価額を算出する場合は、「財産評価基本通達」に従うということです。つまり、現在のタワマン節税は、この税務当局内部の職務マニュアルである「財産評価基本通達」に準拠した評価方法なので、安全な節税方法としてこれだけ広く知られることになったといえるでしょう。
では、何故今になってこのタワマン節税のリスクが取り沙汰されるようになったのかと申しますと、その理由はこの財産評価基本通達6「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」という規定にあります。タワマンの評価について、財産評価基本通達を使うと不都合だと国税庁が判断すれば、他の国税庁長官が決めた他の評価方法を適用します、と明確に通達に規定されているわけです。わかり易いですね。
私たちが税金を考えるときに、まず理解しなければならないことがあります。それは、法律の根拠がなければ税金は課されないということです(租税法律主義)。そして、相続財産評価に関する法律は相続税法であり、財産評価基本通達は法律ではないことに留意しなければいけません。従いまして、税務当局がタワマン節税を問題視しているからと言って、タワマン節税が直ちに全て無効と言う理屈はないし、そもそも税務当局もそのようなことを意図しているとは考えられません。
では、どのようなケースについて違法が疑われるタワマン節税となるのでしょうか。ちなみにこの場合の違法とは、相続税法22条すなわち税額算定の基礎となる時価評価に違法性が疑われるケースです。一例を挙げましょう。
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死期が近づいた人がタワーマンションの上層部を購入し、数日後に死亡。相続人は財産評価基本通達に準拠して 相続税評価額を計算し相続税申告書を提出した。実は被相続人の死後数日後に当該タワマンは他へ売却され、売却額 は相続人が受領した。被相続人の所有期間は僅かで、実際に部屋を使用することもなかった。 したがって、購入時と売却時の価格はほぼ同額であった。
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上記の事例について、このタワマンに関する相続税法22条に規定する時価はいったいいくらだとみなさんは思われますか。どの時価が税法上の正義に適っていると思われますか。実際に被相続人が、「ワシは死ぬ前にタワマンの最上階に住むことが夢なのだ」と語っていた場合はどうでしょうか。相続人が相続税を捻出するためにやむなく被相続人死亡後タワマンを売却した場合はどうでしょうか。さらに、相続税を少なくするために全て仕組んだとしても、それをもって違法と言えるのか、つまり租税回避行為の是非という古くて新しい問題も勘案する必要があるのです。
1年前の事務所通信にも書かせて頂きましたが、タワマンの購入に関しては業者の節税のうたい文句に踊らされることなく冷静に、居住用であれば本当に家族との生活がイメージできるのか、投資目的の場合は値崩れ等の市場リスクは大丈夫か、賃貸目的の場合は空室リスクをどう見込むのか、について十分に検討すべきです。個人的には本当に欲しいという意志(実需)で対応すべきだと思います。