【ご相談内容】
先ほど改定された厚生労働省のモデル就業規則に、副業・兼業(以下、副業等)が追加されたことから、当社でも副業等を認めようと考えています。その際の税務はどのようになるのでしょうか?就業規則で副業等を許可した手前、税金のことは従業員個人の問題であったとしても、会社が全く関知しないということは如何なものかという立場です。
【結論】
1. 手続
(ア) 税務署に開業届、青色申告の承認申請書等を提出
(イ) 所得税等の確定申告
2. 留意点
副業等から生じる所得の種類は「事業所得」又は「雑所得」ですが、どちらかについては法律に明確な規定はありません。ちなみに事業所得で、かつ、赤字である場合には給与所得からその赤字を引くことができ、結果として源泉徴収済み税額が還付されます。また、事業所得の場合には、一定の要件を満たす記帳を実施した場合に青色申告特別控除として65万円が事業所得から控除されます。
ちなみに、事業主が個人の確定申告に係る費用(税金以外)を福利厚生メニューとして就業規則に規定し、負担する例もあります。納税に関する社会的責任を重視する姿勢が評価されることは勿論のこと、自律的で創造性に優れた人材を確保する戦略として副業等を積極的に利用している例でしょう。
【解説】
当職も金融機関に勤務していた時、税理士を兼業していました。会社員VS税理士の収入は9:1程度だったでしょうか。当時は勤務していた会社を「一番大きな顧問先」と考えていました。働き方改革真っ盛りの今となってみては、流行の最先端(というよりは、流行の先を走り過ぎていた…)自分が誇らしくもあります(笑)。
さて、“【結論】2.留意点”の通り、副業の税務については、その所得区分が「事業所得」なのか「雑所得」なのかが大きな問題となります。法律に明確な規定がないため、国税不服審判所の裁決例、裁判所の判例によって判断するしかありません。裁決例及び判例のポイントを要約してみました。
- 自己の計算と危険においてする企画遂行性の有無→(口語訳)自分のお財布から必要な経費は支払い、損したら自分で被るのであれば事業ですよ。そして、その副業等が本業になってもずっと続ける意思がありますか。
- 精神的肉体的労務の投入の有無→(口語訳)片手間では事業としては認めませんよ。
- 人的・物的設備の有無→(口語訳)自分で用意した事業を行う場所、設備はありますか。
- 職業・経験及び社会的地位→(口語訳)事業をするための資格、経験、そしてあなたを必要とするお客様はいますか。
- 社会通念→(口語訳)実務的にはこれが一番大事。他所様から見て、あなたは事業主に見えていますか?
以上を総合的に勘案して「事業所得」もしくは「雑所得」かを判断します。
政府は「終身雇用」から「副業等の推進」に舵を切りました。これからはサラリーマン社会も費やした時間中心→成果中心、つまり成果主義に替わることは必至です。それも急速に。
モデル就業規則の注釈には、「就業規則の規定を拡大解釈して、必要以上に労働者の副業・兼業を制限することのないよう、適切な運用を心がけていただくことが肝要です」との記載があります。当職はこの記載に政府の副業等推進に関する並々ならぬメッセージを感じました。
最後に、税制が「働き方改革」の足かせとならないことを祈るばかりです。