本当は怖い、助成金

 先日、当事務所の顧問先が人事系のセミナーに参加したところ、「返済不要の資金なので助成金を申請してみれば」と講師(某資格者で申請の代行を請け負うとのこと。)から熱心に勧められたそうです。後日、当職との定期面談の際に、その顧問先から「そんなおいしい話ってあるのですか?先生は助成金についてどう考えますか?」と質問されました。
 それに対する当職の助言は、「お勧めできません。その理由は、助成金を受給されるには要件を満たすことが必要であり、それを証明するためには多くの書類作成等の手間がかかるからです。それだけ手間をかけても助成金の受給は大抵一回。そして最大の欠点は、実際に事業主が負担した金額以上に助成金が支給されることはない(【参考】トライアル雇用助成金)ので、助成金目当てで本来必要のない設備投資や雇用をする等、本末転倒の結果になってしまうことが多いからです。」というものでした。

 この助言は当職の経験則にも基づくものでもあります。その経験則とは、「顧問先が助成金獲得に熱心になるとその顧問先の経営が悪化する」というもの。そこでこの経験則の理由を次のように考えてみました。

  • 1. 助成金獲得に熱心になるあまり役所に提出する書類作成等の手続きに疲弊してしまい本業が疎かになる。
  • 2. 本業での利益が見込めなくなったので助成金に頼る。
  • 3. 気が付けば助成金の獲得が目的化し、無駄な設備投資や雇用をしてしまう。その結果資金繰りが悪化するとともに固定費が膨らんで損益分岐点が上昇し、坂を転げるように経営が悪化する。

 1については成功報酬ベースで助成金申請代行を請け負う社会保険労務士がいらっしゃるようなので、そちらに依頼すれば解決するので問題の本質ではありません。2については、そもそも公的な資金である助成金を使って延命させるべき事業や企業なのかという根本的な疑問があります。その経営者が考えるべきことは速やかな市場からの退出と事業の再生でしょうから、これも問題の本質とは言えません。さて、問題は3の助成金が及ぼす「無駄誘発効果」です。

 当職は無駄誘発効果のカラクリを次のようなものと考えます。
 そもそも助成金の目的は、利益を考えると見合わないので民間がやらない(できない)経営行動について、公的機関が金銭を拠出して経営行動のハードルを下げることです。例えば、地域活性化を目論んだ新規開業の助成金メニューがあります。しかし、助成金がなければ開業できないような地域でその後継続的な経営が期待できるのでしょうか。助成金がなければ雇入れなかった人材が本当に経営に求められる戦力でしょうか。
 公的部門が本来担うべき過疎地対策や雇用対策を民間部門が引き受ける理由はありません。また、政府の失敗を民間が尻拭いする社会は、経済における個人の自由と尊厳を尊ぶ資本主義社会とは言えません。
 助成金の受給を検討する際には、ぜひ助成金の無駄誘発効果を検討していただきその怖さを今一度考えること、目先の利益に惑わされることなく本業に経営資源を集中させること、そして将来の事業見通しが芳しくないときには思い切った事業転換、リストラ等に向き合うこと、これが経営者に求められる決断です。

【参考】
 「トライアル雇用助成金」(厚生労働省所管)。この助成金は35才未満の対象者に対してトライアル雇用を実施する場合、1人あたりの支給額が最大5万円(最長3ヵ月)というもの。当該助成金の目的は次の通り。
「職業経験、技能、知識等から安定的な就職が困難な求職者について、ハローワークや職業紹介事業者等の紹介により、一定期間試行雇用した場合に助成するものであり、それらの求職者の適性や業務遂行可能性を見極め、求職者および求人者の相互理解を促進すること等を通じて、その早期就職の実現や雇用機会の創出を図ることを目的としています。」(厚生労働省HPから引用
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/trial_koyou.html)。