【ご相談事例】自分の死後、配偶者が安心して自宅に住み続けて欲しい(遺留分 家族信託 相続税)

【ご相談内容】
 ご相談者はとても仲の良い高齢のご夫婦。
 夫「最近、将来のことを考えると不安でなりません。息子が1人いますが、残念ながら私たち夫婦はその嫁とどうも関係が良くありません。私の財産は自宅の他にはこれといったものがなく、現預金等の金融資産は僅かです。
 気になることは私の遺産に関する「遺留分」です。妻に遺産を全て相続させる旨の遺言書を書こうと考えていますが、この場合でも息子は1/4の遺留分を持っています。自宅の価値は知り合いの不動産業者から1億円程度と言われました。息子が遺留分を主張してきた場合2500万円を分け与える必要があり、妻は私の死後金銭で支払うことは自宅を処分しない限り到底できません。
 息子は今のところ「自分は遺留分なんて主張しないから、母さんが安心して今の家に住み続ければいいよ」と言っていますが、嫁の言いなりになる傾向があることが気になります。私の死後、嫁が遺留分を強力に主張してきた場合に息子は嫁を説得しきれるとは思えません。
 金銭で遺留分を支払えない場合は自宅を処分するか、自宅を共有名義にするほかないのでしょうか。なにか他に良い方法はありませんか…。」

【結論】
1.家族信託を使って、妻の居住権を安定化させる方法が考えられる。具体的には「信託受益権の複層化信託」を用いて、「土地建物を住まいとして使う権利」と「不動産そのものを所有する権利」に分解し、前者を妻、後者を息子に相続させる。そして妻の死後、息子は「土地建物を住まいとして使う権利」を相続する。
2.ここでは、複層化信託の信託受益権の相続税評価額算定が全体のスキームの肝となる。具体的には財産評価基本通達202を用いて合理的に推算し、信託受益権を評価する。
3.信託法は比較的新しい法律であり、特に複層化信託の経験がある専門家は多くない。さらに、このスキームが関係した遺留分を巡っての判例がないことや、信託受益権の相続税評価額に推算が入る故に評価の恣意性を排除しきれないため、評価額を巡って税務当局と意見が分かれる可能性があるので注意を要する。

【解説】
 最近多いご相談です。国税庁の調査(平成26年分の相続税の申告状況について)によれば、不動産が相続財産に占める割合は41.5%です。その割合は年々減少傾向にあるものの、主たる相続財産としての地位は当分揺るがないと思われます。
 このような日本における相続財産に占める不動産割合の高さと若年世代である相続人の経済状態の悪化が相まって、相続財産が居住用不動産である場合に親の持ち家に子が頼る傾向があるように感じます。そして、問題を複雑化させるのが子の配偶者との関係性と言えるでしょう。

 このような「困った」に対する有力な処方箋として昨今専門家の間で用いられる手法が「信託」です。今回のご相談のように、配偶者の「居住権」を担保する仕組みとしては信託の応用である「複層化信託」が有効であると考えられます。そして、複層化信託を組成する際に難易度が高い部品が税金です(後述します)。

  複層化信託とは、信託受益権(ご相談の事例の場合は、受益者としての配偶者と子が持つ権利のこと)に対して、「土地建物を住まいとして使う権利(収益を得る権利)」と「不動産そのものを所有する権利(元本を所有する権利)」とに分けた信託のことを言います。
 例えば、マンゴーの木とそこに成ったマンゴーの実があるとしましょう。収益を得る権利はマンゴーの実を収穫しそれを食する権利。一方、元本を所有する権利はマンゴーの木を所有する権利。ご相談の事例の場合は、妻はマンゴーの実を安心して収穫し食べ続けることができれば良いわけです。一方、子は母親が死亡した後確実にマンゴーの木を所有することができれば安心です。
 さらに遺留分の問題については、「収益を得る権利」も「元本を所有する権利」もともに金銭的価値を有するので、「元本を所有する権利」の価値が遺留分を上回れば、信託を使わなかった場合に妻が子に支払う義務のある代償金の問題も解決するでしょう。

  先に述べたように複層化信託を組成する際に注意しなければならない点は税金です。複層化信託を使用するにあたって収益受益者が取得する収益受益権の税務評価方式は次の通りです(受益者連続型信託の評価は下記と異なります)。
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1.収益受益権

  • (ア)信託の効力発生時において受益者が将来受けるべき利益の額(受益者の存命年数や居住の価値を推算)
  • (イ)推算した価額ごとに課税時期からそれぞれの受益の時期までの期間に応ずる基準年利率による複利現価率を乗じる 

2.元本受益権

  • (ア)信託財産の価額を算出
  • (イ)上記から収益受益権を控除

3.信託受益権=1+2
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