【ご相談内容】
先日、当社の取引銀行から「税金対策になるから」と、ある生命保険の加入を勧められました。銀行の担当者いわく「10年後に解約したときには払い込んだ生命保険の80%をお返しします。そしてこの保険が凄いのは、節税効果を加味した実質返戻率なのです。この表をご覧ください。節税分を考慮したら120%の返戻率になるんです。お得でしょ。」
先生、本当にこんなおいしい話があるのですか?
【結論】
ありません。
【解説】
本業の融資業務が厳しいせいか、最近地方銀行を中心に生命保険の営業が熱心です。そのセールストークで、上記【ご相談内容】と同様のやり取りが、台本の存在をうかがわせるように、当事務所の他の顧問先からも数多く聞いています。
営業ツールとして保険会社が作成した解約返戻金の予定表には、「単純返戻率」と、下がった法人税額を考慮する「実質返戻率」が表示されています。
単純返戻率とは、文字通り支払った保険料の内、単純にいくら戻ってくるかの割合です。例えば、支払った保険料100万円、10年後に80万円戻ってくる契約なら、単純返戻率80%の保険です。
一方、実質返戻率とは、単純返戻率に「経費としての払込み保険金効果」で減った税金を加えた率の事。例えば、支払った保険料100万円、「経費としての払込み保険金効果」で減った税金30万円、10年後に80万円戻ってくる契約なら、実質返戻率は110%((30+80)÷100)です。
ここで、実質返戻率のトリックは、解約返戻金80万円が戻ってきた事業年度に増加する法人税額が加味されていないこと。つまり、この時に増える税金と保険金支払い時に減った税金は相殺されるというマジックがお分かりいただけたでしょうか。
したがって、皆さんが生命保険という高い買い物をするときには、実質返戻率ではなく、単純返戻率を冷静に考え、「20%は掛捨て」という認識を持たなければいけません。
最近は外貨保険、外国信託保険等の複雑な仕組みの保険商品が出回っているようです。為替リスクや法令変更(日本、海外)リスクを持つ金融商品に投資するリスクについて、売る側は十分に説明し、買う側は十分に理解しているのか、当事務所でも疑わしい事例を散見します。
そもそも個別の節税(税務)相談は税理士法違反です。どんなに良いお薬でも、服薬する量、タイミング、お薬の組み合わせ、そしてそもそも症状に合ったお薬なのかについて、皆さんは医師や薬剤師の免許を持たない者の指導で服薬するでしょうか。
生命保険も同じです。