一般社団法人は、営利を目的としない法人で、人が集まることによって法人格を取得して作ることができます。一般的には馴染みのない法人ですが、沖縄でも軍用地所有を目的として一般社団法人を利用する例があります。
11月30日付の日本経済新聞の記事によると、2018年度税制改正の中で、一般社団法人を使った相続税の課税回避措置を講ずることが検討されているそうです。
政府が問題視している一般社団法人の使い方は、相続税対策で一般社団法人を設立し、親(被相続人)の相続財産を一般社団法人に移し、法人の支配権も子(相続人)に移転するというものです。この仕組みの運用で、一般社団法人という箱に相続財産を入れて、理論上は子、さらには孫やその先の代まで非課税で遺産を相続できることになります。この方法は、相続税節税スキームの中では比較的単純なこともあって、オーナー社長の事業承継手法として普及していると言えるでしょう。
しかし、一般社団法人を使った節税には注意点もあります。それは相続税法第66条4項に規定される租税回避防止規定です。当該条文の意味するところは、「持分の定めのない法人(一般社団法人等)を利用して相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められるときには、その法人を個人と見做してこれに相続税等を課税する」というものです。
この租税回避防止規定に対して現行実務では、定款等に「解散した場合には残余財産が国等に帰属する」旨の定めをすることによって、「法人と個人の関係は完全に遮断されました」と「宣言」をします。まるで自分の資産であってないような状態と言ってよいでしょう。
一方で、政府は事業承継対策税制という官製スキームを別途に用意しています。しかし、その適用要件が煩雑かつ制限が多いため、平成20年の制度開始以降、その利用が認定(相続税)959件、認定(贈与税)626件(平成28年9月末現在)と非常に少ない件数にとどまっています。
このような状況下で、税の公平性の問題はあるにせよ事業承継の簡便的な手法とも言える一般社団法人スキームを封じることで、我が国にとって喫緊の課題である事業承継を停滞させてしまっては元も子もないのではないでしょうか。
当職は、「事業承継対策税制の利用を促す制度改正」と「税の公平性の観点での一般社団法人スキーム防止措置」とを政策パッケージ(注)にすることなしでは、事業承継問題の本質の解決にはならないと考えています。
(注)その後の報道で事業承継対策税制も2018年度税制改正で拡充されることがわかりました。その目玉は納税猶予について全株式の100%に改正されるということです(現行法では53%)。しかし事業承継の際、後継者が感じるハードルとして税が占める割合はいったいどれほどのものなのでしょうか。
次世代の経営者が事業承継に当たって憂慮すること、そして、有能な後継者であればあるほど望む事、それは「今の外部環境に立ち向かえる自由な経営」なのではないでしょうか。この点、旧世代の経営者が築いた設備、人件費等の固定費が競合他社との競争の足かせになっているのであれば、まずはそれを整理したいはずです。事業承継対策税制が承継される事業の雇用等に関する要件を変えない方向であるなら、その方向性を起業家精神溢れる後継者が受け入れることは難しいと言わざるを得ません。
「起業家精神溢れる次世代経営者の自由な活動を保証する仕組みの整備」こそが事業承継対策の本丸であるような気がします。皆さんはこの点どのようにお考えになるでしょうか。