さて、前回に引き続き、概算経費特例の詳細についてご説明します。
1. 概算経費特例の節税効果
条文では、社会保険診療報酬が2,500万円以下の部分は72%、2,500万円を超え3,000万円以下の部分は70%というように、段階的に定められた経費率を社会保険診療報酬に乗じる仕組みになっています。一般的には次の速算表によって概算経費額を知ることができます。
要約すれば、社会保険診療報酬5,000万円までは経費率が約70%、仮に4,500万円の収入であれば経費は約3,200万円になります。
概算経費特例と立法趣旨が同じような制度として、売上高が5,000万円以下の事業者に対する消費税の簡易課税制度があります。消費税の簡易課税制度とは、小規模事業者の消費税申告事務を簡便化するために、仕入れの都度消費税を別途計算することなく、業種ごとのみなし仕入れ率を使用して、納税すべき消費税額を計算できる制度。例えば、サービス業の場合、みなし仕入れ率は50%です。ちなみに、この簡易課税制度を巡っては会計検査院が平成24年に「益税」の問題を指摘しているところです。
いずれにしても、仮に医院等の概算経費率をサービス業の50%と仮定し上記の条件に置き換えると、次のような計算が可能です。
4,500万円×(70%-50%)=900万円
仮に所得税、住民税、事業税を合わせた税率が50%として900万円×50%=450万円
したがって、医院等は概算経費特例を利用するだけで毎年450万円が手元に残ることになります。概算経費特例が医院等の最大の節税アイテムと言われる所以です。そして、この資金を、医師等の技術の向上及び設備投資を通じた患者への還元、スタッフの処遇改善等に向けることが政策目的であることは言うまでもないでしょう。
医院等は概算経費特例の制度趣旨を十分に理解し、概算経費特例を適用可能な医院等は積極的、かつ、計画的に当該制度を利用すべきです。