平成29年6月、国税庁は財務省設置法第19条の趣旨に則り、「税務行政の将来像」(以下、「将来像」)https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2017/syouraizou/pdf/smart.pdfを国税庁ホームページで公表しました。
注目されるのは、人工知能(AI)を税務行政に積極的に活用することを宣言していること。「将来像」によると、AI導入で期待できる効果として、納税者利便性の向上と効率的な税務行政の実現を挙げています。
前者については現在税務署に寄せられている納税者からの税に関する相談をAIで対応し職員の手間を減らす効果、後者については税務調査対象選定に関してAIの力を借りることによって「的外れ」を回避する効果が期待されているようです。税務調査については、調査対象の選定をAIに手伝わせ、それによって冤罪を掛けられた善良な納税者を守ることができるのであれば、税理士としても税務行政のAI化は歓迎すべきことです。
以上は、税務行政の効率性向上を目指す行政サイドの話。当職はむしろ税務行政の効率化の先にある「税務行政特質論」解決の処方箋をAIが描いてくれることを期待しています。ここでいう税務行政特質論とは、「大量で反復的な課税処分を行うためには、形式的、画一的な処理が不可欠である」という「税務は他の役所に比べて仕事量がとんでもなく多いので、ある程度形式的、画一的な手続きで不利益処分を行ってもやむを得ない」という的な考え方のことです。
この税務行政特質論が象徴的に表れる場面が、税務調査後に税務署によって行われる更正処分とその理由付記(例えば、税務調査の結果、納税者にとって追徴課税等の不利益処分がある場合、その理由の説明)でしょう。
以前は税務行政の現場や裁判所でも税務行政特質論を受容していましたが、近年司法の場ではこの理屈が通用しなくなっています(一例として大阪高裁平成25年1月18日判決)。現在の裁判所は、税務当局が納税者の税務申告を否認するのであれば、それ相応の証拠力のある資料の提示、否認の判断基準を明らかにしてくださいね、ということです。裁判に耐えうるこれらの疎明には相応の時間と労力が必要となるので、この点税務行政のAI化は税務手続保障についても有力な味方になってくれるはずです(将来的にはAIが更正処分とその理由付記も担ってくれるかもしれません)。また、税務行政に対する批判ばかりでなく、その効率化については税理士、そして納税者も一市民の立場で電子申告等を積極的に活用し、共に効率性を求める姿勢も重要でしょう。
当事務所の管轄税務官署である名護税務署は、内部事務処理の集中化施策の一環で多くの業務が沖縄北税務署に移管されました。そこで減った事務作業に費やしていたマンパワーを大口・悪質事案に対する深度ある税務調査等に振り向けること、税務調査に関する手続保障に費やすことは租税法律主義の観点でも好ましいことです。
そしてこの取り組みは国税のみならず、地方税についても同様です。むしろ労働集約的な事務が行われている地方税(地方税はそのほとんどが国税の結果に税率を掛け算しているに過ぎない。)の方が効率化の余地が桁違いに大きい筈。地方税にかかわる職員はAIに代替し、その結果発生する事務系余剰人員は速やかに市民との対面が必要な福祉の現場、市民のニーズを足で探す御用聞き等に配置転換するべきです。そして納税者の代理人である税理士はその実行を税金の使い道の観点で監視する責務があるのです。