11月20日(金)日本経済新聞朝刊で、厚生労働省と財務省が市販薬について早ければ2016年から家族合わせて年1万円を超える支払いをした場合は所得税を減らすことができる制度を与党に提案する旨の報道がされています。来年は参議院選挙が控えているため、このような社会保障費の削減という減税財源が見込める案は実現の可能性が高いと思います。
現在でも市販薬についておなじみの医療費控除で所得税を減らす方法は有りますが、医療費控除は原則として年10万円を超える支出が控除額であるため、実際にはそれほど減税の恩恵を受ける家庭はありませんでした。しかし、厚労省は今回の減税案の対象は1000万世帯(日本の世帯数は5200万世帯ですので、約2割の世帯)を超えると予想しているそうです。
現在の薬の購入については、「病院や診療所で処方される薬は7割引で買える」という制度です。もちろん病院や診療所で処方される薬は医療用医薬品ですので、有効成分の質と量は市販薬とは異なります。この違いを薬局(薬剤師)が購入者に説明したうえで、購入者が納得して通院することなく市販薬を購入しても何ら問題はありません。薬局を訪れる方の中には、病院へ行く機会費用(病院に行く時間を働いた場合に得ることができるお金)を考えると薬局で購入できる市販薬の方が実質的には安価という方が少なからずいるはずです。これが今回の減税案によって所得税、住民税、健康保険税が減るため、従来の病院(医療用医薬品)VS薬局(市販薬)での実質薬価の差はかなり縮小するとみてよいでしょう。
今回の減税案の成否は、「薬局での薬剤師による健康相談の充実」にかかっているといっても過言ではありません。今後は、健康相談の充実を図るとともに、薬局経営における原価率の低減、市販薬以外の健康関連商品の品揃え、質の高い健康相談のための設備及び人材への投資、薬剤師の専門分野、経験及び経歴の開示、さらに薬剤師のパーソナルマーケティング(親しみやすさのアピールや「あの先生に健康相談したいから来店する」といった動機付け)等、来店者との信頼関係を一層密にする経営が必要な時代になりました。
今回の減税案の政策目的は、高齢化で増大する社会保障費の削減ですが、一方で税法はこんなところでも税金を通じて私たちの習慣や薬局との関わり方を変える役割を担っているのです。