【ご相談内容】
私が社長を務める法人から、友人が社長を務める法人に土地を無償譲渡しました。彼とは幼馴染で、昔当社が資金繰りに困ったときに親身になって助けてくれました。今回の土地の贈与はその時の恩返しのつもりです。
タダであげたので当然当社には何の利益も発生しません。したがって当社の経理事務員は贈与した土地の帳簿価額を損金に計上し、法人の資産台帳から消しました。
数日後、当社の顧問会計事務所が定期巡回監査で当社に訪れた際、その担当者から「贈与した土地は時価で未収入金に計上してください。贈与した土地は時価で寄付金として処理します。御社の場合はこの寄付金の一部しか税務上の経費になりません。」と指摘されました。土地をタダであげて何のお金も入ってこないのに税金だけ取られることが解せないのでその理由を担当者に尋ねたところ、「経理や税務はそういうものなのです!社長、もっと勉強してください。」と怒られてしまいました。勉強しようと思って質問したのに…。
こちらの事務所は顧問契約を結んでいなくても相談を聞いて頂けると知って訪れました。ご教示お願いします。
【結論】
御社の顧問会計事務所の担当者が指摘された経理処理、それ自体は正しいと思われます。しかし、ご相談者が言われるように「理由」を知ることはとても大切なことです。理由によってはご友人に対するもっと良い恩返しの方法があるかもしれません。例えば、贈与の代わりに土地の時価相当分を貸してあげることも検討する余地があるでしょう。そうすれば大切なご友人に、贈与だったら納税する税金分も恩返しすることができるからです。
【解説】
ご相談内容に関しましては、会計や税務の専門家であれば違和感のない取引ですが、一般的には大いに違和感があるのではないでしょうか。
この違和感の理由は簿記のルール(企業会計原則)の「総額主義」にあります。総額主義とは、「費用及び収益は、総額によって記載する(仕訳をする)ことを原則とし、費用の項目と収益の項目とを直接に相殺することによってその全部又は一部を損益計算書から除去してはならない。」というもの。つまり、「経理処理は端折ってはダメですよ」という約束事です。そして税法(法人税法第22条2項、同4項)は無償による資産の譲渡を総額主義で経理することを強行法規として規定しています。
さて、この総額主義で厄介なのが、分解した取引のいずれかが他の税法規定に抵触する場合でしょう。今回の場合はご友人の法人に贈与する行為は「寄付」になってしまい、「寄付金の損金不算入(法人税法第37条)」という別の納税者不利の規定が適用されてしまいます。
ご参考までに仕訳例をお示ししましょう。
➀(借方)未収入金 500 (貸方)土地 100
譲渡益 400
↑
利益=課税される
②(借方)寄付金 500 (貸方)未収入金 500
↑
全額は税務上の経費にならない=課税される