出張の際に従業員や役員へ手当を支給することは一般的だと思います。一方、具体的な支給額についてはその金額の多寡について「もやもや感」を持ちつつ決めていることが多いのではないでしょうか。そこで今回はこの「もやもや感」を解消するために根拠法令等を参照しながら出張手当を整理しましょう。
● 所得税法上の出張手当の定義
所得税法上の出張手当の入り口は給与所得であるということを確認します。ちなみに事業所得など給与所得以外の所得については、手当という概念すらあり得ません。その理由は、手当とは雇用された従業員等が支払う業務上の負担を、業務上必要な経費は原則として雇用主が負担するという考え方で補填されるものだからです。事業主は自分のリスクで事業をしている、つまり雇われているわけではないので、業務上必要な経費を雇用主から当然に支給されるという考え方がそもそもないからです。
給与所得とは、従業員や役員に支払う俸給や給与、賃金、歳費、賞与の他、これらの性質を有するものをいいます。そして給与等は原則として所得税の課税対象となります。その原則課税の例外規定として、「出張などのための旅費のうち、通常必要と認められるもの」が非課税給与(手当)として規定されています(所得税法9条1項4号)。この「出張などのための旅費のうち、通常必要と認められるもの」が所得税法上の出張手当の定義です。
この所得税法の条文は出張手当を検討するにあたってとても大切ですので全文をご紹介します。
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所得税法第九条 次に掲げる所得については、所得税を課さない。
四 給与所得を有する者が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をし、若しくは転任に伴う転居のための旅行をした場合又は就職若しくは退職をした者若しくは死亡による退職をした者の遺族がこれらに伴う転居のための旅行をした場合に、その旅行に必要な支出に充てるため支給される金品で、その旅行について通常必要であると認められるもの
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● いくらまでが所得税非課税の出張手当なのか
出張等のために従業員等が負担する費用のうち、その旅行について通常必要と認められるものが非課税出張手当だということがわかりました。では、具体的にその金額はいくらなのでしょうか。結論から言えば、その支給を受けた者の職務を遂行するために行う旅行の実情に照らして考えるということになります。例えば職位に関しても、役員の職務遂行と一般従業員のそれとは通常異なります。取引先、あるいは社内的にもその期待される職務遂行内容(責任と権限)は異なるからです。役員であれば役員として期待される服装、出張がなければ必要のなかった消耗品の類、出張先での情報収集費用、活動範囲があります。このような職位ごとの期待が明らかになればその出張手当の金額もおのずと決まるでしょう。実務を通しての当職の感覚では一般社員で一日当たり3,000円程度、そしてこれを基準として給与差、出張目的等を勘案して職位ごとの出張手当を定めるのが合理的だと考えます。
● 出張手当規程の必要性
このように出張手当が非課税であるためには、その金額が合理的に定められ、会社として統一して運用されているかに尽きるでしょう。そのためには出張手当規程の備えが不可欠であると考えます。例えば次のような所得税法基本通達があります。
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(年額又は月額により支給される旅費)
28-3 職務を遂行するために行う旅行の費用に充てるものとして支給される金品であっても、年額又は月額により支給されるものは、給与等とする。ただし、その支給を受けた者の職務を遂行するために行う旅行の実情に照らし、明らかに法第9条第1項第4号《非課税所得》に掲げる金品に相当するものと認められる金品については、課税しない。
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この通達は年額又は月額で支給される出張手当は出張手当という名目で支給していても原則給与ですよ、課税しますよ、と言っています。しかし、この通達の後段では、その支給を受けた者の職務を遂行するために行う旅行の実情に照らし、明らかに法第9条第1項第4号《非課税所得》に掲げる金品に相当するものと認められる金品については、課税しないとし、例外をうたっています。この通達の前段(課税)、後段(非課税)を客観的に明確にする方法の一つとして、出張手当の規程化(文書化)が有効であると考えます。規程化すれば、何が合理的な金額なのか、通常必要であると認められるものか、についてその都度税務当局に疎明をする必要はなくなるでしょう。
従業員等に対して安定した所得税非課税である(税務調査官に給与として事実認定されない)出張手当を支給するためにも、税務調査官への疎明負担を低減するためにも、旅費規程の整備及び文書化は不可欠だと思われます。
● 出張手当は消費税の対象か
最後に出張手当に関する消費税の課税関係を確認したいと思います。
結論から言えば、その旅行に通常必要であると認められる部分の金額だけが仕入税額控除の対象となります。その通常必要であると認められる部分の金額の範囲は、所得税が非課税であるかどうかにより判定を行います(消費税法基本通達11-2-1、所得税法基本通達9-3)。
つまり、出張手当に所得税が課されると源泉徴収の対象になるばかりではなく、消費税の観点でも仕入税額控除が使えないという二重の不利益が従業員等と事業主に生じることになります。充分に注意してください。
【注】
この文章は当職の法令解釈に基づくものです。実務への適用に関しましては顧問税理士等にご確認することをお勧めします。