【相談内容】
私が牧師を務める教会(宗教法人)では近年子供がいない兄弟姉妹(筆者注:信者さんのこと)が増えており、「死後は自分の財産を教会へ遺贈することを考えている」旨の申し出を受けています。教会としても兄弟姉妹の想いに感謝で応えたいのですが、具体的にどのようにすればよいのかご教示ください。
【結論】
遺言書を作成し、そこで宗教法人を受遺者に指定すると良いでしょう。その際、法定相続人の遺留分に配慮することが必要です。
税法上は一定要件を満たせば宗教法人は相続税の納税義務者ではありませんが、その一定要件が複雑なので注意が必要です。また、相続財産が不動産の場合には原則として譲渡所得税が発生します。
【解説】
相続税の納税義務者は、遺贈または相続により財産を取得した「個人」と定められており、法人が遺贈を受けた場合については、原則として相続税の納税義務者とはなりません。例外は、持分のない法人(宗教法人は持分のない法人に該当)に遺贈し、その遺贈により「遺贈者の親族等の相続税負担が不当に減少する」、つまり、当該遺贈が租税回避行為と認定される場合です。
租税回避行為の具体例としては、遺贈を受けた宗教法人に所属する役員が遺贈者の親族で、一旦遺産を宗教法人に寄付した後、遺贈者の親族である役員に多額の役員報酬を支払えば、相続税の負担をなくしつつ、財産を「個人」に移転できるといったケースです。
また、宗教法人の組織運営が適正になされている必要もあります。税務当局によって行為も組織も租税回避が目的だと認定されてしまうと、その宗教法人を個人とみなして相続税が課税される訳です。
当然、納税者に不利益となる認定は税務当局が恣意的に行えるはずはなく、どのような場合に相続税等の負担が不当に減少しているのか、どのような運営組織が不適正なのか、について法令で詳細に定められています。法令の説明は割愛しますが、相続税法施行令第33条3項各号には、理事等の定数、選任の方法、議事の決定用件、収支予算及び決算、基本財産の処分、給与等の支給基準等々が事細かに定められています。
当職の経験では、実際に宗教法人が遺贈を受けるに先立って、法令の要件を満たすように法人の諸制度の整備及び見直しが不可欠である場合がほとんどです。
また、相続税法とは別に所得税法では、個人が土地、建物等の財産を法人に寄付(贈与、遺贈を含む)した場合には、寄付時の時価によって譲渡があったとみなされ、これらの財産の取得時から寄付時までの値上がり益に対して所得税が課税される規定があります(所得税法第59条1項一)。この場合の納税義務者は遺贈者となるため、準確定申告で譲渡所得税を納税することになります。