顧問先の経理担当の方からしばしばお受けする質問が、支払先や使途がわからない(本当は知っているが組織の一員として帳簿に記載できない)支出の経理処理です。このような支出は懲罰的な高い税金が課されること、また、税務調査の現場で調査官と議論になる論点として税理士なら誰でも要注意事項として警戒する支出でしょう。
実務において、「使途秘匿金」と「費途不明の交際費」とを混乱している事例が散見されますので整理したいと思います。
● 使途秘匿金(租税特別措置法第62条)
法人がした金銭の支出のうち、相当の理由がなく、その相手方の氏名又は名称及び住所又は所在地並びにその事由を当該法人の帳簿書類に記載していないものを言います。支払った目的はおろか、支払先さえも不明な支出です。
ペナルティとして、損金として認められない上に、使途秘匿金額の40%が法人税とは別に課されます。
● 費途不明の交際費(法人税法基本通達9-7-20)
法人が交際費、機密費、接待費等の名義をもって支出した金銭でその費途が明らかでないものをいいます。支払先は領収書等に記載されているのですが、支払の目的等が記載されていない支出です。
ペナルティとして、損金不算入処分になります。事業に使ったものなのかよくわからないため損金としては認められません。
上記のようなよくわからない伝票に遭遇した経理担当者は、まず次のことを考えます(考える筈ですね)。
- 使途秘匿金として経理処理すべきか?
- 不課税取引なので仕入税額控除は当然受けられない…。消費税申告上も損なのではないか?
- 使途秘匿金は税務上罰金的な課税を受けるのか?
- 社長の指示で支出されたのだから、役員給与(賞与)で処理できないか?
- 役員給与(賞与)で処理した場合は、役員給与の損金不算入規定に該当しないか?
- 役員給与(賞与)で処理したとしても源泉徴収漏れが発生してしまうのか?
- 使途秘匿金として処理したら税務調査の時に不明朗経理をわざわざ調査官にアピールしているようなもの…、支払先に迷惑がかかることはないのか?
上記の経理担当者の気付きは全て正解です。
このように、ベテラン経理担当者ほど使途秘匿金や費途不明の交際費の処理については悩ましいものなのです。そして金額が多額になれば、追加的な税負担や会社の信用の低下によって会社財務に重大な影響を与えることもお見通しでしょう。
【税理士のアドバイス】
中小企業の実務として、このような支出は実質的には社長に対する貸付金の性格を持つものがほとんどだと思います。なので、役員貸付金として取締役会や株主総会で決定し、議事録を作成するという手続きが肝要であろうと思われます。そして、将来的に社長の報酬を引き上げ、それを原資にして社長が会社に返済する方法が望ましいでしょう。
金融機関対策として、決算書に「役員貸付金」があることは好ましくないという意見もあるかと思いますが、当職の経験として理由が明らかな役員貸付金であるならば、融資決定にあたって金融機関はその旨考慮しているようです。
また、経理担当者がこのような進言を上にすることに気が引ける場合は、第三者である顧問税理士が税法及び財務上の論点を社長に説明し承諾を得るという手順を踏むことも一考に値するでしょう。気になることには税理士を使いましょう。
ちなみに、使途秘匿金等について上に進言したり、税理士に相談したりする経理担当者が在籍する会社は信頼できそうですね。そしてそのような経理担当者を採用した経営者にも当職は敬服します。