第4回目では最終回として、年間社会保険診療報酬が5,000万円を超えそうな場合の対応について解説したいと思います。
2. 概算経費特例使用に当たっての注意点(その2)
概算経費特例は個人事業主の開業医にとって税務上大変有利な制度ですが、社会保険診療報酬が5,000万円を1円でも超えると使えません。
ちなみに、平成25年度税制改正で概算経費特例適用要件が「医業(歯科医業)の事業所得の総収入金額が7,000万円以下の年分」に狭められました。自由診療報酬や物品販売収入も概算経費特例適用の算定基礎になったわけです。
したがって、説明を簡略化するため、以下のシミュレーションは自由診療報酬等が2,000万円以下であることを前提とした概算とします。
● 社保報酬5,001万円の税引後所得シミュレーション
- 所得税、住民税、個人事業税を合わせた税率→50%
- 売上高事業所得率→50%
- 税額→5,001万円×50%×50%=1,250万円
- 税引後所得(手元に残ったお金)→5,001万円×50%-1,250万円=1,250万円
● 社保報酬5,000万円の税引後所得シミュレーション
- 概算経費額→5,000万円×57%+490万円=3,340万円
- 所得税、住民税、個人事業税を合わせた税率→40%
- 税額→(5,000万円-3,340万円)×40%=650万円
- 税引後所得(手元に残ったお金)→5,000万円×50%-650万円=1,850万円
● 差額600万円に相当する社保報酬
- 600÷50%÷50%=2,400万円
したがって、上記の如く社保報酬が5,000万円を超えた場合には、概ね7,400万円の報酬を得なければ手元に残るお金は目減りすることになります。
経営の観点では、毎年8月の終わり頃までに年間社保報酬を予想して、5,000万円を超えそうな場合には院長先生は次の行動をとることになります。
(ア) 学会出席、職員の研修、休暇等で休診し、5,000万円未満にとどめる。
(イ) 診療日及び診療時間、患者受け入れを増加させ、7,400万円以上を目指す。
(ウ) 成り行き任せ。
具体的な対応の際には、患者、スタッフに対する影響を最小限に止める努力が必要でしょう。患者対応については他の診療所との連携や時期をずらした計画的な休診、スタッフ対応については休診時の所得補償や繁忙対策、手当支給が考えられます。いずれにしても(ウ)成り行き任せは避けたいところです。
当事務所の関与先ご指導の基本方針は、5,001~7,400万円の着地を回避する長期戦略を持つこと。具体的には、スタッフ採用計画、診療所の多角化、予約診療制、先生の働き方改革と事業承継も含むご家族のライフプラン、設備投資計画の作成等によって中長期的な手元資金の最大化を図ることです。
良質な医療を確保するためには掛け声だけでは不十分であり、医師、歯科医師、その他の医療従事者について、その職業に就く迄の投資回収も含めた十分な報酬が確保される必要があることは言うまでもありません。