遺産分割協議とは、相続人全員の合意の下で被相続人(亡くなった方)の遺産の分け方を決める話合いです。各相続人に帰属する前の遺産については、相続人全員が法定相続分の割合で共有していることになります。そのため、遺産分割協議成立前に各相続人が遺産に係る預金の解約や有価証券の処分をしたり、不動産からの賃料を費消したりすることは当然できません。
遺産分割協議が成立するとその内容を書面にします。これが遺産分割協議書です。遺産分割協議書には相続人全員が署名(記名でも可)、押印(実印が必要)することによって、第三者に対して各相続人の相続財産が確定しました、という証明の効果が生じます。この遺産分割協議書の証明をもって、法務局で不動産の名義変更が可能となり、金融機関で預金の引き出しが可能になる等、相続手続きが一気に進行することになります。
もうお分かりのように、このような対外的に強い証拠力を持つ書面ですので、真の相続人が誰かについては、「相続人全員が実印をもって押印」することで担保されることになります。そして、事情によってはこの実印押印が非常に難関になってしまうことがあります。各相続人にとっては、法律によって自分の相続人としての権利が強固に守られていると感じる瞬間でしょう。
この強力な権利の裏返しで、仲が悪く何年も疎遠になっている兄弟にも遺産分割協議に参加させ、あるいは遺産分割協議書の内容に同意させ、それを実印押印という形で結実させなければなりません。
またこんなケースもしばしばあります。遺産分割協議には期限がないため、相続が発生して何年も過ぎた後、なんらかの必要にせまられて遺産分割協議書を作成しようとしますが、当初の相続人が死亡しており、その配偶者や子に相続権が相続されているケース。その子のうち一人が外国で暮らしている…。彼(彼女)って実印を持っているのか、確認しようにも連絡がとれない…等々。
以上のような、ある意味ではわかり易い困難さを上回る、実務でしばしば遭遇する事例は次のようなケースです。
被相続人が生前の頃は、皆そこそこ仲の良い関係を維持していたので、当然相続人間の連絡は問題なく、遺産分割手続き自体も問題なくできそう…、しかし、遺産分割協議書(案)を実際に読んだらそれぞれの言い分がふつふつと湧き出してきた。いざ実印押印となって、「本当に自分の相続分はこれでよいのか、不公平ではないか…、自分は他の兄弟より亡くなった父の面倒をよく見ていた…等々」となってしまうのはザラです。実はこのようなケースが遺産分割協議不調の原因として一番多く、遺産分割協議の難易度、実は「難関」と考える所以です。
相続未登記等で所有者が分からなくなっている可能性がある土地の総面積が、九州より広い約410万ヘクタールに達するとの推計結果を、有識者でつくる所有者不明土地問題研究会(座長・増田寛也元総務相)が2017年6月26日に公表しました。原因は遺産分割協議が頓挫してしまい、時が経って関係者が消滅してしまった結果と推察されます。
次回は遺産分割協議が成立しない場合の税務上の不都合な事実についてご説明します。