法人や個人事業主が新規事業、設備投資、あるいは一時的な資金繰りの都合で金融機関からの借入を検討することはよくあることで、大切な財務戦略の一つと言えるでしょう。このような事業借入は個人がマイホームを取得する際の住宅ローンとどこが違うのでしょうか。答えは担保の有無です。
金融機関は住宅ローンを実行するにあたって、借入対象となる家屋や土地に抵当権を設定します(貸付のかたに取るということ)。もちろん住宅ローンは毎月の収入から少しずつ返済するのですが、万が一ローンを返済することができなくなった場合には、金融機関は家屋や土地を差し押さえ(抵当権の行使)、換価(換金)して残っている住宅ローンの返済に充当します。金融機関にとっては家屋や土地の評価を正しく行っている限り貸し倒れのリスクはありません。
一方、法人への事業貸付の場合、従来社長は“貸付のかたとして”個人保証を求められていましたが、最近では中小企業庁と金融庁が音頭を取って作成した「経営者保証に関するガイドライン」が浸透しているためか、金融機関がそのような要求をすることは少なくなってきました。
そこで社長の個人保証に代わって、金融機関が融資審査の際に重視するようになったのが「決算書」です。金融機関が信用ある決算書に基づいて返済の可能性を「目利き」して融資の可否を決める時代になったと言えるでしょう。
さて、税理士の仕事の一つとしてデューディリジェンス(以下、略してデューディリ)があります。デューディリとは、「不動産投資や企業の合併買収などの取引に際して、投資対象となる資産の価値・収益力・リスクなどを経営・財務・法務・環境などの観点から詳細に調査・分析すること」を言います。「依頼人が買いたいものを調べて値踏みすること」とでも言えるでしょうか。
デューディリに関する細かい説明は割愛しますが、その工程の一つである決算書を分析することが非常に重要となります。この点が、金融機関が事業貸付を行うにあたって法人や事業を「目利き」する場合と同じということです。なぜならば、デューディリは調査対象のキャッシュフロー(お金の流れ)を明確にすることが重要であり、キャッシュフローは金融機関にとってはまさに貸付先の返済能力を意味するからです。
私見になりますが、当職がデューディリをご依頼されました際に、決算書のどこに関心を持って見ているのかについていくつかご紹介しましょう。
- 税務申告を最低2期以上行っていること。
- 既に借入金が計上されている場合、当初の貸し付け条件の緩和(リスケ)がなく、直近の一年間返済の遅れがないこと。
- 直近2期の決算期において減価償却費を除いた経常損益が赤字でないこと。
- 製造業であれば、棚卸資産の明細。
- サービス業であれば、人件費の傾向と内容。
- 債務超過の場合、債務超過に陥った原因と債務超過解消の見込みの評価。
- 法人から代表者への貸付金、仮払金がないこと。
最後に。金融機関が融資したくなる会社、投資家が投資したくなる会社は、抽象的になってしまいますが、「決算書を通じて明るい未来が見える会社」です。明るい未来が期待できる会社なら、過去や現状はそれほど重要ではありません。お金は未来への“期待”に集まってきます。