【相談内容】
某金融機関からの借入金で不動産を購入しましたが、当てにしていた返済原資収入が期待できなくなってしまいました。金融機関からは当該不動産を任意売却して残債を一括で返済するように要求されています。少しでも多く返済に回したいのですが、不動産を売却した場合にどのくらい税金を納めなければいけないのか心配です。ご教示ください。
【結論】
譲渡所得(売却益)が存在すれば原則課税です。一方、例外として【解説】3.(ア)、(イ)、(ウ)の要件を全て満たせば非課税です。
【解説】
1. 譲渡所得=売却収入金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額、です(所得税法33条)。この譲渡所得がゼロ以下であれば譲渡所得は発生しません。譲渡所得が発生しないなら税金はゼロです。
2. 上記算式の留意事項としては、借入で当該不動産を購入した場合、かつ、売却時に残債がある場合、その残債は譲渡所得からは控除できないという点です。
3. 但し、残債があり、かつ、譲渡所得が発生する場合であっても、次の全ての要件を満たす場合には非課税です(所得税法9条10項、所得税法施行令26条)。
(ア) 資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難であること。
(イ) 強制執行が避けられないこと。
(ウ) 譲渡対価の全額が弁済に充てられたこと。
4. 特別控除額の例として、居住用財産(マイホーム)を譲渡した場合の3000万円の特別控除特例があります。その他にも、公共事業のために土地家屋を売却した場合の控除等の特別控除特例があります。適用要件が複雑なものもありますので、申告に当たっては事前に税理士等へのご相談をお勧めします。
上記3.(ア)「資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難であること」について、過去の通達等では、「その者の債務の金額が積極財産の価額を超えるときのように社会通念上債務の支払が不能(破産手続開始の原因となる程度に至らないものを含む。)と認められる場合をいうもの」(昭57直資2-177、平18課資2-2改正)、といった些か抽象的な書振りとなっています。
これを補完するのなら、財産評価通達を参考にされるのが良いでしょう。その205に貸付債権の評価について規定しており、「債務者の資力喪失の具体例」を検討する場合に参考となります。ちなみに、債務者が個人事業主であれば最近の納税の状況、預貯金残高と推移、信用、才能等を総合的に勘案して評価することになります。要するに、「今後いくらくらい稼げる人物か」について、可能な限り客観的に評価することがポイントとなります。返済不能な人物と評価されれば、その人物への貸付金は相続財産に含める必要はありません。