【事件の内容】
B(Aの使用人兼務役員)は商品配送中の事故によりCに損害を与えた。当事者間の協議では当該損害額について折り合いがつかず、結局CはA(法人)とBを相手取り、民事調停を申し立てた。
【条項例】
1. A及びBは、連帯してCに対し、本件事故に基づく損害賠償債務として、金500万円の支払債務があることを認める。
【税理士の視点】
1. 当該事故に関して、業務関連性の有無
2. Bの故意又は重大な過失の有無
3. 物損であればその対象物
【解説】
Bが第三者に与えた損害について、Aが被害者へ損害賠償金を支出した場合における損金算入の可否の考え方及び課税関係は次のようになります。
1. 所得税法
(ア) 業務関連性があり、かつ、従業員に故意又は重大な過失がある場合で、法人が従業員等に給与として損害賠償金相当額を支給した場合には、当該給与は源泉所得税の対象。ちなみに社会保険料の対象でもあります。
(イ) 業務関連性がなければ、給与又は貸付金。
(ウ) いずれにしても所得税は累進課税なので、年間所得は要検討。
2. 法人税法
(ア) 業務関連性があれば、法人は勘定科目「雑損失」、「損害賠償金」又は「給与」として損金計上可。
(イ) 業務関連性がなければ、法人は勘定科目「給与」として損金計上可。
(ウ) 役員に給与として支給した場合には、役員給与の損金不算入規定(法人税等34条他)が適用され、原則として損金性は否認。
3. 消費税法
損害賠償金として合意した場合、資産の譲渡等の対価ではない(対価性がない)ので、不課税取引。したがって、当該支出については仕入税額控除の計算対象外。
しかし、例えばCの損害がCの所有する棚卸資産等であって、これをAが買取った場合等、一定の場合にはAにとって課税仕入れとなり、仕入税額控除適用の余地はあると思われる。
【総論】
以上の課税関係を鑑みて、税理士としては不測の課税を回避するために、当該損害賠償金については可能な限りAからBへの貸付金にしませんか、という提案をすることになります。この提案の実行可能性については、まずAとBの関係性(要するにBがAにとっていかに必要な人材か、法人が損害賠償金を負担してまで雇用したい人材か)に尽きます。
その一方、コンプライアンスの観点では、法人は日頃から各種の就業規則について、社会保険労務士等、人事や労働法規の専門家から助言を受けることも予防の観点から必要でしょう。なにかコトが起こる前に予防する、これも経営者の重要な責務なのではないでしょうか。
ちなみに、Aが個人事業主である場合には、故意又は重大な過失の有無が問われるのはBではなく、原則としてAになります。これは経済活動については、法人と自然人とが明確に区別され、個人事業の場合はAとBとは一体として見做されるからだと考えられます。
(所得税法45①七、所得税法施行令98、法人税34他、法人税法基本通達9-7-16他)